……やってしまった。
――いや、別に大したことはないのだ。自分にとってそうであるというだけで、相手は、されたその人からすると、大したことではないのかもしれないのだ。だって、そうだ。目覚めたとき、慌てていたのは自分だけで、その人はいつも通りに笑って、ちょっとは休めた? なんて言って。あー。こんなことならあと少しと欲張らずに休息を入れるべきだった。いやそもそも、そうなる前に手を打てばよかったのだ。色々な反省を浮かべては、しかし、けれど、起きたことは何一つ変わらない。変わるはずもない。過去は事実なのだ。
「……膝枕って……!!」
文字通りに頭を抱えて、キースはその場にうずくまった。周囲に人はおらず、幸いにも奇行を見られることはなかったが、そんなことに構っていられるほどの冷静さはなかった。
事の発端は、いつもの徹夜だ。ちょっと研究に時間を使っていたら仕事が溜まってしまい、それを解消すべくちょっと無理をして、その上研究から手を放さなかった。ただそれだけだ。それだけだが、人間、休息を取らねば頭も体もどうにかなってしまうのだ。そうして正常な判断を失ったキースが医務室で出会ったのがテティスであり、そこから彼は、長年共に過ごしてきた家族にべったりと甘えるような態度で、彼女に寄りかかったのだった。キース自身の記憶は、そこで止まっている。
――ああ。と、様々な感情が口からあふれるようにして、ため息が出た。後悔、羞恥、それだけ見ると大変ネガティブだが、それだけではなかった。思い出すだけで体の中が少し熱を帯びるような感覚に、嫌悪感はなかった。それどころか役得とさえ思ってしまって、それが、彼女の好意をそう思ってしまった自分がすごく、卑怯に思えて。それが小さな針となって、キースを責めた。
「急にあんなことして、なんて思ったかな……いや、でもいつも通りだったもんな……」
なんとも思ってないのかな……。自分で考えておいて、少しだけへこんだ。甘えるってことは相当気を許してるってことだ。好意だ。それを嫌がらないってことは少なくとも嫌われてはいないのだろうが。……そうやってなんとか自分を励ますことさえどこか空しかった。
ああ、次に顔を合わせるとき、どんな顔をすればいいのか。再び彼女から、いつものように、おはようと言ってくれないだろうか。そうしたら、いつも通りおはようと返せるかな。…………。それはあまりにも、他力本願な考えではないだろうか。
自分を嘲るように乾いた笑いをこぼすと、キースは再び深く、深く、ため息をついた。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -