最初はなんとなくだったのだ。なんとなく、話をして。なんとなく、一緒にいて。歳が一緒なんだ、なんて笑って他愛ない話をしていたのだ。
周りの人たちに囲われて、守られて育ったこと。自分の力なさに悩んだこと。気が付けばいろんな話をして、二人は仲良くなった。家族と呼ぶには少しちがう、けれどそばにいることに安心感を覚える距離感。こういった存在をなんと呼ぶのだろうか。
「……友達、かしら?」
しばしの間を置いて思案したテティスは、手にしたカップを膝の上に下ろし、おもむろにそうつぶやいた。ふむ、と彼女より受け取った言葉を咀嚼したキースが腰掛ける椅子をキィと鳴らす。友達。友人。親しい間柄を指すその表現は言い得て妙だ。なるほど、と頷いたキースは湧き上がる綿毛のような感覚に目を細める。なんかやっぱ、改めて考えるってくすぐったいもんだな。と。
「そう?」
「そうだよ。いやー、でもちょっとすっきりした! 俺、家族以外の人とあんまり話したことないからさ」
こういうの、よくわかんなくて。自分の意思で誰かと親しくなることも、会話を重ねることも。これからもしかするとそういったことがたくさんあるのかもしれないが、その度にこういうくすぐったい気持ちになるのか? ……よくわからない。なにせ初めてのことだ。自分で自分を選べるようになってから、初めての。
「これから友達、いっぱいできるかな。俺」
「……あなた社交的だから、その気になればできるんじゃない?」
テティスのそれは軽やかな口振りではあったがどこか確信があるような自信ありげな声色だ。
そうかな、とキースが返すと間髪に入れずにそうよ。と返答される。私と違ってね、なんて言いながら。
「その内、私と話す暇もなくなっちゃうほどいっぱいになったりして」
「えー。それはないよ」
「どうかしら」
「というか俺、そんなに薄情じゃないからね!」
「……ええ、そうね」
ぽん、と口をついて出る言葉のやり取りが心地よい。大した話ではないが、むしろしょうもない話ばかりだが、楽しいのだ。それが。それだから。そうであるから。――彼女がここに来てよかった。話ができてよかった。そんな気持ちも初めてだった。未知が既知に変わっていく。その工程はいつだって、甘露のようにキースの心を弾ませた。
机の上のカップを手に取る。彼女がここへ訪れた際の手土産だ。温かかった中身は、すっかり冷えてしまっていた。
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