穏やかな朝だった。船の設備の稼働音、船員たちの話声、雨風の届かない部屋に全身覆って余りある布団。本に描かれるような平穏とは少し遠いけれど、これも自分にとっては十分に穏やかと言える日常だった。
身支度を軽く整えてエレベーターへ向かう。するとそこに、花を思わせるような鮮やかな色を見つけた。かかとをそろえ、静かに目の前の扉を見ているようだ。……思えば、この光景にもすっかり慣れたものだ。そう思いながらニールはその背中に声をかける。
「……おはよう、ミネット」
「あ、ニール。おはよお」
締まりのない声とほんのりと温度の高い笑み。
──どうやら、彼女もこの朝を穏やかなものだと思っていたらしい。
そのことが見て取れて、ニールは胸の内に温かい気持ちを覚える。
「今日は随分気持ちよく眠れたようだな」
「まぁねえ。やっぱり、久しぶりのふわふわベッドはいいものだねえ」
歌でも歌うかのように弾んだ声。彼女が笑うたび揺れる赤色のリボン。それらのささやかな要素たちが朝のひとときを彩っていく。一日が始まる。
きっと今日もなんてことはない、いつも通りの日になるだろう。だけどこんな日々がいつか、夢を現実に変えていくのだ。そんな淡くも確信めいた感情で、ニールは隣に並び立つ人に柔らかく笑いかける。今日もよろしく頼む、と。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -