資料を読み耽っているその少年に気づかれぬよう、ゆっくりと近づいていく。そろり、そろり。足音もなるべく立てないよう気を付けてみたものの、やはりある程度距離を詰めたところで気配でも感じ取ったのだろう。目線を上げたニールがミネットに気づき、顔ごと視線をそちらに向ける。ぱち、と星の瞬きの如く衝撃を伴って目が合った。
「……ミネット」
柔らかく表情をほどいたニールの年相応なあどけなさを向けられて、ミネットは自身の心臓がきゅっと収縮するような痛みを感じた。
不意にそういう顔、向けられると弱いんだけどな!
「いるなら声をかけてくれ。何か用か?」
「そ、ういうわけじゃ……ないけど」
紙の束を机に置いて、会話をする姿勢。まだ何も言ってないのに、こちらを優先しようとする仕草がミネットをより一層くすぐったい気持ちにさせていく。それが誰にでするものではないと知っているから。
そういう風に言葉以上の何かで特別感を提示されることが照れくさくて、それでいて嬉しい。だからそういうところが見たくてわざと声かけなかった、なんて言ったら、呆れられてしまうだろうか。ミネットはニールから向けられる笑みを見る度、自分の恋心を感じていた。
「……なんか、どうしようもなく甘やかされてる気がする」
「誰に」
「君にだよ! 他に誰がいるの!」
「そうか……?」
あまり気にしていなさそうなところを見ると、意識すればこれ以上ということなんだろうか。……あんまり想像がつかない。ただでさえ毎度優しさを向けられているというのに、これ以上の何かだなんて。きっと、心に触れることさえできるようなこの感応能力にだってわからないだろう。
「まあ、されているお前がそう感じるなら、そういうこともあるのかもしれないな」
「もー……、その言い方はずるいなあ」
それじゃ何だか、わたしが君のこと大好きみたいじゃん。……まあそうなんだけど、さ。肯定するしかないのがずるい。ずるいよ。わたしにとっての君は特別だって、知ってるくせに。……知ってるから、かもしれないけど。
エンゲージでも言葉でも、いくつもの実感で繋いだ心がふわふわで曖昧な気持ちを確かな現実のものとして認識させていく。想う気持ちも、……想われる気持ちだって。でも、でもそれってちょっと自惚れ?
ミネットはニールを見る。どうなの? ──確かめるように向けた唐突な視線に、ニールは訝しむ気配もなく、それどころか穏やかに目を細めた。
「……う。やっぱり……ずるい」
「そうか」
ミネットの言葉に含まれた白旗のニュアンスを感じ取ってか、ニールが満足げに笑う。
真新しい感情には戸惑わされてばかりだけれど、そんな日常も二人でいるから生ずるものなら。──今ならそんな気さえ起こる。
きっとこの感情はこれからも、ミネットのことを変えていくのだろう。そんな未来だって、君となら「好き」だって思えてしまうのだ。
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