その時の、彼の表情が、いつまでも頭から離れない。
血の繋がった弟からの鋭い目線。信用しない、と強く突き放す言葉。頭ではなんとなくわかっていたんだ、と弱々しく呟いたのは、部屋に戻ってからのことだった。
いつも元気に笑って、こっちがしょげようものなら背中を叩いて激励してくれたその人は、これまで見たことがないほど複雑そうに表情を歪めて俯いていた。それが、私の心をひどく揺さぶっていた。痛いほどに。それはきっと彼の、ジークの内を掻き乱している痛みが伝うようにして。
「今、オレたちにはオレたちの道がある。だから、あいつにもあいつの道があるんだ」
「……うん」
「わかってんだよ、そんなことは……」
でも。と声が落ちる。文字通り頭を抱えるようにして、ジークは必死に言葉を探していた。
彼が感じているきもち、その深度こそ計り知れないにしても、理解ならばミネットにもできた。血のつながりはないけれど、ミネットにも家族はいる。自分が、もしも彼とその家族であったなら。ようやく、奇跡にも近い確率で生き別れた相手に出会えたとき。その時に相手から突き放されてしまったら。――言葉の最適解など出るはずもない。
「……せめて、無事で。お互いにこれからも生きてりゃ、また会えんのかな……」
切実で、あまりにもささやかな願いが叶えられるように。そう祈るだけが、無力な自分に出来たことだった。
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