「悪いが、話し相手なら他を当たってくれ。」ぽかんと呆気に取られたまま、わたしはその人の後ろ姿を眺めていた。そもそもの話、浮ついた誘いは少し苦手なのだ。人好きのする笑みに優しげな言葉は嫌いじゃないけれど、どう対応するのが正解なのかがわからない。だから苦手。ちょっと話すだけ、ちょっと「今日の天気はいかがですか。」とかそういう、当たり障りのない話をするだけでも。そういうことが気負わず出来ればいいのに。せめて愛想は忘れまいと曖昧な笑顔を返すだけのやり取りにどうしたものかと思い始めた頃、その人は現れた。深めに被ったフード、赤いバンダナを巻いた腕。それから。「……行くぞ。」あっという間に場の主導権を握り、ついでにわたしの腕を控えめな力で引いて、その人は歩き始める。一方その後ろをついていくわたしはというと、願うより先に救われてしまって、どうにも理解が追いついてこないままでいた。
……ただわかるのは、この人は助けてくれたということだ。困っているようにでも見えたのか(実際にそうなのだけど)、間に割って入ってくれて、その上に連れ出してもくれている。他者に対して反抗的になりがちな年頃の少年だが、彼はこういうところでよく気がつき、そして配慮することをためらわない。そういうこと、当然にできちゃう君ってちょっとずるいよ。……とはさすがに言えないので、先を歩いて行く背中に向かってかける言葉は簡潔に。「あの……ありがとね、助けてくれて。」本当は、もう大丈夫だよとも言えばいいのだろうけれど、言ったら腕は離されてしまうだろう。それは、少しだけ惜しいから、もう少し引いていてほしいから、今はただありがとうとだけ聞いていてほしい。「ああ、」と短く返ってきた声にわたしは内心でそう願っていた。
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