ちか、ちかと。木漏れ日の瞬きのような、朝露の煌めきのような、そういうありふれた尊さだ。朝目が覚めて、みんながいて、貴方がいて。こんな日常は、そういったものなのだ。ユウゴ、と名前を呼べばその人はすぐに振り向きそして目を細めて笑む。そんなことが、それだけのことが嬉しかった。なんでもない。呼んだだけ。突然投げかけられたしようもない言葉にだって彼はいちいち付き合ってくれた。
いつだってそばにあったのは、やわらかな布団にくるまれるみたいな、そういったあたたかさだったのだ。
「イノリ、」
「ん」
「呼んだだけだ。……はは、なんか傍から見たら何してんだ、ってやりとりだな」
おかしそうに言ったその人は、自分を見上げるイノリの視線に目をあわせる。時間にして1秒程度、それから徐に表情を和らげると彼はその手で幼馴染の頭をくしゃりと撫でた。む、と喉を鳴らすような声にすらならない音を発し、イノリはそれを受け入れる。少し乱れた髪も厭わずに何を、と問いかけるもかえってきたのは機嫌のよさそうな笑顔。それだけだった。…………。続けようと思っていたことをしまいこむようにイノリは唇を結ぶ。何も行動の意図を汲み取れなかったというのに、その時、それに対する不可思議さに勝る感情がわいて溢れそうになっていたのだ。なんだろう、このきもち。出かけた言葉が霧となって散り、消えていく。駆け巡っていくあらゆる思考が言葉にならず、まるで喉を塞がれるようなこのきもちは一体。なんなのだろうか。探るようにもう一度、ユウゴを見上げる。幼い頃からそうしてきたように。そうやって、一緒に歩んできたから。
だから、この答えだって。いつか貴方が、私に教えてくれるのだろう。そう信じて疑うことはないのだ。
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