彼女の強さを認める奴は、この世界にはたくさんいる。
周囲にも、そうでない場所にも。彼女の噂は、一時からこの北欧に、広く知れ渡った。けれどもそれは、あくまでも”クリサンセマムの鬼神”の話だ。彼女のことを噂する人々は、彼女のことを知らない。――それは、経験談であった。ニールもそうだった。戦歴を目にするだけで人柄までわかるはずはない、当然のことだが。
クリサンセマムの鬼神は、恐ろしく強いらしい。そう口にした若いAGEが、筋骨隆々な女性を想像して笑っていたのをふと思い出した。当時は気にも留めなかったことだったが、ふと、思い出した。
対比だった。今、目の前にいる彼女と、その噂の彼女が。それはあまりにもひどく、かけ離れていたものだから――
「だめだなあ……なんだか、君には情けないところばっかり見られちゃう」
弱々しい声で、体を小さく折りたたんだ少女が笑う。何を落ち込んでいるのかニールには知る由もなかったが、そんなことは些事であった。彼女は決してそれを言わないだろうから。ならば、ニールも聞かない。それでいいと思っている。
であれば何ができるのだろうか。例えばこれが、寄りかかってくれる相手ならば。助けを求めて手を伸ばす相手なら、それを掴んでやることができる。言葉ほど簡単なことではないが、それでも道が見えるだけやりようがある。――故に。そうでない相手は厄介なのだ。彼女は決して寄りかかってはくれないだろう。それは、付き合いが長くないニールにも想像ができた。
性格もあるのだろうが、より強いのは意地だ。プライドだ。人の希望を背負うということを、この少女は知っている。
「強いってむずかしいね。わたし本当にみんなが言うように、強いのかな」
「……お前は強いよ。そうでなければ、ここまでのことはやれやしない」
「あはは、ありがと」
知っているから、責任に押しつぶされそうになるのだ。そんな彼女の様子が、ニールを、まるで鏡をのぞき込むような心地にさせる。
彼女の思考は、正直よくわからない。真面目な話をしているときもあれば、ふわふわと宙に浮いているようなことを口にすることもある。子供を相手に大人を見せたと思えば、はしゃいでいる姿は子供のようだし。けれど、それなのに。彼女を見ていると、まるで自分自身を見ているような気持ちになった。それは才能か、あるいは立場か。何かが、彼らには深く共通していた。だから、ニールは彼女を放ってはおけないのだ。今だって。必死に痛みを隠そうとしているところに、気づけてしまうから。
「……君は、優しいね」
膝を抱えた腕にちょこんと顎を乗せて、ミネットがニールを見上げる。
「はーあぁ。君の前でも、出来たら、強がっていたかったんだけどな!」
「人の強がりを剥がしておいて、そう都合よくいくものか」
「あー…………。ああ、そうかあ……お互い様になってしまうのかあ」
――お互い様、か。もう一度噛みしめるように呟く声を聞いた。泣きそうな声をしている割に、その表情はいつも見せるそれと大差ない。いっそのこと涙でも流してくれれば、この手で拭ってやれるのに。
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