その色は。その色は見慣れているはずだった。――咄嗟。無意識にそうして、それから。ミネットはあれ、と自分の行動に疑問を浮かべた。なんてことはない一瞬の出来事だった。
もともと、ミネット・ペニーウォートという少女は他人からの視線に人一倍敏感であった。だからそのときも。あれ、なんだか、見られている。なんて思って。
思って、それから、特に何も考えずにそちらを見た。視線の主が思い当たるから。知らない人じゃないから。家族に対してするように、何か用事でもあるのかな、なんて深く考えもしないで。
でも、だけど、彼は違った。家族じゃないと言えばそれは拒絶のようで、なんだか、嫌だけど。そういう意味じゃなく、そうじゃないけど、けれどやっぱり。この人は家族ではないのだ。
こないだから船で暮らすようになった人。ミネットはその人に対して、家族と同じように仲良くなれると思っていた。しかし、実際のところはどうだろうか。意識していないところではどうしようもなく他人で、あと、異性だった。年下だけど。まだあどけなさを残した少年だけど。でもちゃんと男の子だった。そう感じるようになったのはいつだっただろうか。……、残念ながらろくに考えたことがない。だから、どうしようもないくらいに、なにもわからない。
ただ、ただ。彼はミネットにとって、異質で。例外で。――特別で。
彼は言葉を聞いてくれた。ミネット自身ですら取りこぼしてしまいそうなほどの声を拾って、掬い上げてくれた。だから、彼は特別だった。ミネットはそう思って、だから、ミネットがそう決めた。ニールという少年の存在は、特別なのだ。
(ああ、そっか――そうなのか)
その、色。
綺麗な碧い色をしていた。ミネットにはない色で、でも彼らの兄弟とは同じ色。……同じ、だと思ってた。でも違った。おかしいな、ジークやキースだっておんなじなのに。そう思ってた、でも違った。ちがうんだ。同じ色でも、彼らがみんな違うように。彼、だけが、ミネットにとっての特別であるのなら。彼が持つそれだけ、その色だけが特別に鮮やかに見える。瞼の裏に焼き付くほどに。
「ミネット?」
突然顔を背けたそれは、とても不可解な行動に映ったことだろう。少年にしては大人びた声が、ミネットを呼ぶ。
自覚してしまえば、あっけないものだった。あっけなく、まるでその全てが尊いもののように思えた。これが、特別と思うこと。なんでもないことを、なんでもないと思えないこと。――呼ばれたのに、今はそちらを見ることが出来なかった。視線を感じる。あの碧い色を。
(……どうしよう、これじゃまるで)
恋、してるみたいだ。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -