ニール+ユウゴ
「……ブリーフィングは以上だ。何か質問はあるか?」
「はい、はーい」
「なんだ、ミネット」
「あのね。ここの作戦なんだけど……」
ひらりと掲げられたミネットの細い手が、ユウゴの手の中の画面を指す。
一般的な感性を持っているならば、この二人の距離感は異様だと思うだろう。身を乗り出すようにしてべったりとくっつくようなミネットも、それを当然の表情で受け入れるユウゴも。大抵の場合はあれを恋人同士と疑うのだろう。
聞けば、クレアも、ルルも、最初にその光景を見たときはそう思ったらしい。その度に解説を挟むのは自分の役目で、なんておかしそうに笑っていた兄を思い出しながら、ニールは二人のやりとりを眺めていた。誰がどのような関係であろうとさして興味はなかったが、話題に上がっている作戦にはニールも含まれているのだ。それだけで真面目な性格の少年は、その話を聞いていなければと考える。同じく作戦に参加することになっている兄ジークは、椅子に腰かけてのんきに大あくびなんてしているけれど。
「で、こうする方が手っ取り早くていいかなって思うんだけど、どう?」
「ふむ……。悪くはないが、それだと些かお前への負担が大きいんじゃないか。囮のような立ち回りになるぞ」
「そこはまあ、なんとかしてみるよ。それに多少のことはニールがフォローしてくれるからね。ねっ!」
……話を聞きはしていたが、こんな唐突に振られることは想定外だった。かけられた声に少し遅れながらも、ニールは二人の方へと顔を向ける。
「やれることはやるが、お前の御守はしないぞ」
「あはは。もちろん、もちろん! 自分のことくらいは自分で守るよ、……でしょ?」
「わかってるなら、それで構わない」
「じゃあユウゴ、ここはこっちでお願いします! あ、ジークは……話聞いてなかったっぽいなあー。ジークー! ここなんだけどー!」
「んあ?」
ユウゴの手から端末を引き抜いて、ミネットは跳ねるように素早い動きでジークのもとへと駆け出していった。……無駄に元気なやつだ。半ば呆れるようにそれを見送っていると、そんなニールに、置き去りにされていたユウゴが近寄る。
「ニールがフォローしてくれる、だってよ。随分あいつに信頼されてるんだな」
「……それを、よりによってお前が言うか?」
「はは。まあ、違いないかもな」
「はあ……。別に俺は、お前から相棒を盗ろうなんて考えてない。牽制なら見込み違いだ」
余計なことには、出来る限り巻き込まれたくない。馬に蹴られるなんて真っ平だと示してやれば、ユウゴは驚いたように目を丸くして、そうしてそれから、心底おかしそうに声を上げて笑った。少し離れたところにいるミネットとジークにもそれが届いたようで、なんだなんだとこぞってユウゴに視線を注ぐ。
一瞬で注目の的となったユウゴであったがすぐさま、好奇心を隠そうともしない幼馴染たちに対して話し合いの集中を促した。お前らはちゃんと確認作業進めとけ。いつ見てもその光景は保護者と子供たちで、彼らの共有してきた時間の重み、仲の良さが見て取れるようだった。
「……そんなにおかしなことを言っただろうか」
「ん? ああ、まあ、そうだな。お前の言葉を借りるなら、見込み違いだ」
にやりと笑って、ユウゴはニールの頭を撫でるようなやさしさでぽんと叩いた。その仕草に少しの既視を感じながら、ニールはその人を見上げる。
「相棒を盗られるつもりは俺だってさらさらねぇよ。そして別に、それは心配してない。そんな簡単に揺らぐもんじゃないって思ってるからな」
その表情は、不敵という言葉がこの上なく似合った。文字通りの意味だ。どんな存在も、この人にとって敵にはならないのだろう。……大した自信だ。驚きとか、呆れとか、そういうものを一切通り越して、ニールはそれに感心すら覚えた。
「あいつ、お前には気を許してるみたいだからな。まっ、これからもよろしくしてやってくれ」
「…………どういう、意味だ」
「ははは。まあそう身構えてくれるな、仲良くしてもらえると嬉しいってことだよ」
どうやら、牽制よりも厄介なものを突き付けられているようだった。人当たりの良いユウゴの笑みからは、どうにも底が伺い知れない。
しばらく探るように、考え込むように口を閉ざしていたニールであったが、小さくも了承の意を伝える。どうせ、しばらくはここにいるのだ。ここまで日常に馴染んでしまった以上、突っぱねる方が不自然だろうし。誰とはなしに言い訳がましい思考になりながら。
それに対してユウゴは言葉もなくただ笑って、再びニールの頭にぽんぽんと触れた。いちいち、わかりやすい敵意なんかよりももっとずっと難儀なもので以って返されるものだから、非常にやりづらかった。
「ユウゴー! 打ち合わせ、ばっちり!」
「よし、じゃあ時間までは各自自由行動だ。……解散!」
この船には、退屈が入り込む余地なんて隙間もないようだ。
次から次へと押し寄せる極彩色の日常が、ニールにひとつ、ため息を吐かせた。
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