ニールとミネット+キース
誰にも言っていないけれど、ひとつ、自慢がある。
「先輩! 頼まれてた整備、終わったよ。ばっちり調整しといたから、期待してて!」
「ほんと? いつもありがとー!」
跳ねるようにしてみせる無邪気な表情は、その人を少しだけ幼く見せる。クリサンセマムの鬼神、だなんて仰々しい響きの肩書きは、こうして見るとこの人には少し不似合いにも思えた。
けれども、預かっていた彼女の愛機を見れば、どうだろう。激しい戦線を幾度もくぐり抜けてきた跡。自分には到底見られない世界がそこにあって、触れる度にそれを実感させられた。そこには彼女が“鬼神“と呼ばれる所以が詰まっていたのだ。
「ホント、先輩の神機は調整のし甲斐があるよね」
「む……それ、無茶してるって言いたいの?」
「そおだよー。普通の人じゃ絶っっ対にできないだろう傷とかあったりしてさ!」
いくらか力を込めて語ってやれば、その自覚があるらしく、何とも言えないといった表情で返された。
……本当に、どうやったらあんな傷がつくのやら。尋常ならざる力が加えられただろう曲がった刃、攻撃から身を守ったというよりは寧ろ何かに強く殴りかかったからついたような装甲の傷、挙げれば様々ある。神機をこんな使い方するの、この人くらいだ。――そう思っていたのに。
二人の背後でぷしゅ、と音が鳴った。倉庫の扉が開き、一斉にそちらへと視線が流れる。
「キース、ちょっといいか。……っと、お前もいたのかミネット」
「あれ、ニールだ。ここにくるってことは、キースに用事?」
「ああ、神機について少しな」
「そっか。あ、わたしの用件は終わってるから、キースはニールのこと、見てあげて」
「はいはーい。それじゃあ兄ちゃんの神機、見せて見せて」
案外、いるものだった。無茶苦茶な戦い方をする人。それで勝っちゃう圧倒的な強さの人。
覗き込んだ神機は先ほどまで見ていたものと形こそ違えど、持ってる世界の重さはどっこいどっこいだ。君も、あの子も、すんごい主人で大変だね、ご苦労様だよ。そっと労わるように撫でてやる。無論相手は武器だ、返答なんてあるはずもないが。
「……うん、大体わかった。こっちで色々調整しとくね。何か気になることがあったら、また言って」
「ああ、助かる」
神機の整備を任されて気づいたことがある。きっとこれは、この船の中で、俺だけが気づけたことだ。
3つ上の兄ははじめ、あいつら上手くやれるかな、なんて言ったりしてたけど。俺は初めて兄ちゃんの神機を預かったときから、なんとなくわかってたんだ。わかって、それで。そのときすごくすごく、嬉しかった。
「ニールの神機ってさあ、たまにすごく傷だらけになってるよね」
「は、自分を棚に上げてよく言うな。お前だってこの間、装甲にこんな跡がついてたじゃないか」
「あれは……だって……し、仕方ないじゃん!」
傍で始まった賑やかなやり取りを聞きながら、心の中で突っ込みを入れる。――どっちもどっちだよ。きっと口に出せば糾弾を受けるだろうからそれは言わないでおくけれど。
「ほんと、二人って仲良いよね」
きっとこれは俺が、他の誰よりもいちばんに、思ったことなんだ!
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -