時間を持て余し、ターミナルでも眺めて情報収集しようと思ったのがつい先刻。目的の場所へと足を運ぶと、丁度用事を終えそこから離れたらしいその人と鉢合わせた。あ。と、反射的に発した声が重なる。……。一瞬の間を置いて、相手が口元を緩めて笑った。おかしそうに、少し気恥ずかしそうに。それにつられ少しだけ笑っている自分に気づき、ニールは咄嗟に、ごまかすようにして話題を振る。
「仕事か?」
「ううん、ちょっと調べもの。……えっと、今日、わたしが食事当番なの」
そう言って見せてくれる手書きのメモには、簡単にメニューと作り方が書かれていた。当番は今日だけのはずだが、随分色々な種類を調べていたようで、内容こそ簡素だがやたらとメモの量が多い。それを指摘すると、ミネットは歯切れ悪くああ、とつぶやいて目線を宙へ泳がせた。その行動の意図が読めず、ニールはじっとその目を追う。
「えっと……は、初めて調べたんだよね……献立……」
「初めて?」
「うん。今までは教えてもらったりしたことで簡単にぱぱーって、やってて……」
身振り手振りの様子から察するに、野菜をちぎったり茹でたりいためたり、そういうことらしい。たまねぎにソースかけただけなどに比べればよほどマシと思うが。
かさ、とミネットの手元で紙が鳴く。反射的にそちらに目を向けると、メモを眺めている彼女の姿。ニールに彼女の心境は読み取れないが、しかしその目はどこかやる気に満ちているように見えた。
「ちょっと頑張ってみよっかなって。うまく作れるかわかんないけどね」
「そうか。お前がそうして作ったものなら、喜ぶだろうよ」
「はは、そうかなー。……そうかもなあ」
この船の奴らはそういうやつだ。ニールでさえ感じているのだから、彼女にわからないはずもないだろう。そんな予感はミネットの言葉で、表情で、確信に変わる。そこにあるのはゆるぎない信頼関係だった。
そろそろ行くね、と去ろうとする背に、ニールはしばし逡巡しそれから短く応援の意を伝えた。驚いたように振り返るミネットの赤い瞳が丸く瞬いて、それから柔らかな笑顔に変わる。うん、と嬉しそうに弾む声を残すと、今度こそ彼女はエレベーターの方へと歩いて行った。
キッチンへと向かうミネットは閉まる扉を見届けて、大きく息を吐いた。はあ。まさか、よりによってあの人に会ってしまうなんて。握りしめたメモを見遣って、密室の中で独り言ちる。
「言えない……。ニールがちゃんと献立調べて作ってるから、わたしもやろうと思ったなんて、言えない……」
その頃、浮かんだ笑みを自覚しながらしかしそのままにするニールには、知る由もないことだが。
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