メンテナンスを終え、保管庫の出入り口に手をかける。結構時間、かけちゃったな。みんなの命を預けるものなのだから念入りに確認するのは当然のことだが、にしても此度は少し長引いてしまった気がする。お腹すいたな。思い出したようにくう、とさみしそうに鳴く腹に手を添えながら、スライドしてゆく扉をぼんやりと眺める。すると、開いたそこに見慣れた姿を見つけた。おや。キースは反射的に、彼女の名前を呼ぶ。
振り返るその頭の、高い位置で結わえた髪が静かに揺れる。やわらかそうに空気を纏う一連の動きを目で追って、それから、視線を合わせるように瞳を捉える。深い青がじい、とキースを見上げて、それから無表情をほどくようにささやかな笑みを浮かべた。
「お疲れ様」
「あ、うん。ありがと。……テティス、神機に何か用があった?」
「いいえ。……いえ、神機は特に。あなたのメンテナンスだもの、何も心配はしていないわ」
ゆるやかに首を横に振るテティスの双眸が再びまっすぐ、まっすぐにキースの顔を映す。その一瞬に心臓がひときわ大きく跳ね上がる。どうにもこう、見つめられる、ことには慣れなかった。ドギマギとした心境を悟られないよう抑えた声で、キースはそっか、と相槌を打つ。しかしこの、少女は、意地が悪いことに追い打ちをかけるように言葉を続けるのだ。
「キースに用があったのよ。……ううん、正確には。用はないのだけど、会いにきちゃった」
忙しかったかしら。なんて、首を傾いでみせる仕草までもがまるで計算されているかのようにキースの心を的確に捉える。そういうことを言うのはずるい! 甘く痛んだ胸を押さえるように歯の奥を強く噛みしめる。
何よりずるいのは、彼女の場合、全部素でやってるところだ。時折いたずら心を働かせては人をからかうような無邪気さを見せる彼女のことだから、てっきり最初は狙ってやっているのかと思ったものだが、どうにも全部、素なのだ。
「あまりにも心臓にわるい……」
ほろりとこぼして、キースは困ったように笑った。幸いにも小さなその声は、周囲の音に阻まれ彼女に届いていないようで、テティスはそわそわと落ち着きなく自分の指同士を絡ませている。どうやら、言った本人さえもが照れているようで、それがなんだかおかしくて。頭で考えるより先に、自分より低い位置の頭をぽんと手のひらで撫でた。
「ちょっと遅くなっちゃったけど俺、今からご飯食べようと思うんだ。よかったら、話相手になってよ」
「……ええ!」
その返事にはいつもより張りがあって、意識過剰かもしれないけれど、本当にうれしいんだろうなあ、なんて思わせてくれる。ほかの人には、少なくともキースが知る限り他には見せない、自分だけが彼女にさせられる顔。そんな彼女の表情が、キースをいつも甘酸っぱい気持ちにさせた。
並んで進むその歩幅は空腹を忘れたように、ゆっくりと。――ああ。今、もしも「手を繋ぎたい」なんて言ったら、彼女は、どんな顔をするのだろう。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -