ぼうっとする。どうにもこうにもぼんやりしてしまって、何も手につかない。
やはり、昨日ひどく夜更かししてしまったのが原因だろうか。ちょっとだけと開いた書物を読んでいたらそれが思いのほか面白くて時間を忘れてしまった、なんて自己管理がなっていないとしか言いようがないことを言い訳に休むのもなんだか、なんだかちょっと情けない。
気分転換でもしよう、と庭に出てはみたものの、頭の中にかかる靄は晴れてはくれないようだ。(眠そうな顔……。)しゃがんで覗き込んだ池に映った自分の顔はなんとも間抜けで。水面に指を滑らせ広がる波紋を眺めながらまた、ぼうっとする。
あれ、あれ。なんだろうこれ。瞼がずしりと重たい、そう自覚すると同時に、なんだか意識が。徐々に遠ざかっていくみたいで。
ああ、ちょっと、ちょっとだけ寝よう。場所も厭わず庭に寝転んで、目を閉じる。……日差しが暖かい。大きく息を吸い込むと、体中澄んだ空気で満たされる、ような気がする。優しく木の葉を揺らす心地の良いそよ風の中で、琴音は静かに眠りの世界へ落ちていった。
どれだけ寝ていたのだろう。目を開けた琴音が見たのは、見慣れた部屋の天井。ここは、部屋だ。いつも自分が寝起きしている、自室としている空間。
あれ、でも、確かそう。自分は庭にいて、そこで少し、眠るつもりで。徐々に鮮明になる記憶、思考に琴音は思わず勢いよく起き上がった。布団がめくれて、自分の格好を見る。いつも羽織っている上着が、ない。辺りを見てもどこにもないようだけれど、一体、どこへ。
「いいえ、そもそもわたしはどうして部屋に……」
「僕が運んだからですけど」
「わっ!?」
突如として背後から降ってきた声にびくりと体を震わせて、反射的にそちらへと首を向ける。襖の向こうから琴音を見ていたその人、堀川国広は、やや呆れたような顔をしながら失礼します。と部屋に入ると言葉を続けた。
「思ってたよりお転婆というか……能天気なんですね、主さん」
「あの、えっと……。え、堀川が、わたしを運んでくれたんですか」
「そうですよ。全く、なんであんなところで寝てたんだか……」
倒れてるのかと思っちゃいました。冗談めかして言っているけれど、きっと、たぶん、おそらくなんだけど本当にそう思ったのだろう。なんだか彼が少し機嫌悪そうに見える。表情というよりは声色が、そう。思う。
「……もしかして、心配をかけてしまいましたか」
「あの状況に出くわして、心配するなという方が無茶だとは思いません?」
「ご、ごめんなさい」
「ああ、そういえば羽織っていた衣服ですが、少し汚れていたようでしたので失礼ながら勝手に剥いで、ついでに洗濯しておきました。乾いたら届けにきます」
流れるように投げかけられる言葉にはい、と頷く。少しだけ言葉が強いのは気のせい、じゃなさそうだ。彼が相棒と呼び慕う兼定がたまに気圧されているのを見たことはあるが、つまり、こういうことなのだろうと実感する。ああ、確かになんだかこれは、言葉が挟めない。そんな勢いと圧がある。
「昼寝もひなたぼっこも構いませんが……、夜更かしですか?」
「えっ!?」
「……どうしてって顔してますけれど、朝からぼうっとしてたじゃないですか。すっごく眠そうに」
ばれていた。眠いのも、夜更かしも。よく考えたら察しのいい子が多いから、見抜かれてしまうのは当然かもしれない。うう、次から気をつけなくては。小さく縮こまって、こくんと頷く琴音に堀川は小さくため息のように息をつく。
「全く……心配するこっちの身にもなってみろって」
「? 何か言いましたか」
「いいえ。なーんにも」
微かに声が聞こえた気がしたのだけれど、彼がそう言うのだから気のせいだろう。
うん、少し寝たからか頭はすっきりしている。外を見ると少しずつ日が傾いてきているところのようだ。そろそろ食事の準備も始まっている頃だろう。手伝いにでも行ってみようか。
「そうだ堀川、まだお礼を言っていませんでしたね。ありがとう」
「……いえ。ああ、でも。次からはもう少し時間と場所を考えてくださいね」
「はあい。……そうだ、今度は堀川も一緒に」
「寝ませんよ?」
「そうですか、残念です……」
ひなたぼっこは気持ちいいんですけれどね。そういう問題じゃありませんよ。
そんなくだらないやり取りがなんだか楽しくて、琴音は小さく声をこぼして笑った。
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