「薬研は、本当に面倒見が良いですね」
くすくすと控えめな笑い声が聞こえ振り返れば、そこに大きな袖をゆらりと揺らす琴音の姿。声量を落として囁くように喋るのは、薬研の周りを囲むように寝転ぶまだ幼い彼らに気を遣って、だろう。最後の一人に布団をかけ、薬研はそっと立ち上がった。足音を極力抑えて、部屋を出る。
「そうだな。面倒を見るのは嫌いじゃないぜ」
「先日、居眠りをしたわたしに白衣をかけて下さったのも薬研でしょう? ありがとう、助かりました」
「ああ、うん。そいつはよかった。身体には気をつけろよ、大将」
風邪でも引かれたら困る。あんたは俺らの大将なんだから。
頷き笑う琴音を見ているとつい頬を緩ませてしまう。そんな自覚を持ちながら、それを疑問とはせず薬研も笑みを返す。
しかしまあ。あのときのことはよく覚えている。畑仕事に向かおうとして通りかかった部屋、少し空いた戸の隙間から机で書物を広げたまま居眠りをしている琴音を見つけて。寝ているのか、と近づき着ていた白衣をかけて、それから。
「……薬研? どうかしましたか」
急に黙り込んだ薬研を不思議に思ったらしい琴音が、彼の顔を除きこむように見ている。視線に思わず動揺しながらもそれを誤魔化すように何でもない、と告げると薬研はもう一度、思い出した。
頬にかかるぬばたまの黒髪を指でそっと払い、寝顔を眺めたあの酷く穏やかなひと時。
あの時感じた温もりはまだこの胸のうちに残っている。悪戯につついた頬の柔らかさも、小さな寝息も。
そうして自覚するのは、どうしようもなく、彼女の傍にいたいと思う自分自身だった。何かあったとき、何もないとき。彼女の傍に居て、何かをしてやれる存在でありたい。そう思うのだ。
それはきっと、主の為の刀としてそれだけじゃない。いつか、もっとずっと、特別な気持ちなんだと、知ることだろう。――けれど、それでもまだ今は。
ただ、この温かい気持ちのまま、傍にいたい。だからなんでもない。
「なあ大将。昼寝をするならいい場所があるんだ。今度は休む前に、声をかけてくれよ」
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