賑わう町の隅で、薬研はぼんやりと空を眺めていた。
買い物に出るという琴音について町に出てきたものの、その景色、賑わいにはどうもまだ馴染めなかった。本丸も騒がしいといえばそうなのだが、そこにいるのは皆顔見知りで、でもここはそうではなくて。気後れをしているという訳ではないのだが、不思議な気分だった。
よくは知らないが、今この時代で自分たちが戦うことでこの人たちの世界が何か変わったり、いや変わらないの方が正しいのだろうか、とにかくどこかでつながっているというわけだ。と、思考を重ねたとてやはり実感は薄かった。
「お待たせしました、薬研」
そうしていると、買い物を終えた主が小さな袋を抱え駆け寄ってきた。
「ああ。用はこれで済んだか、大将」
「はい、おかげさまで。付き合って頂きありがとうございます」
薬研がそれ、と袋を目線で指し示し、持つぜと言って手を差し出すと、彼女は少し戸惑うように一度ぎゅっとそれを抱えて、それからおずおずと両手で薬研に手渡した。おねがいします、と小さく呟きながら。うろつく視線は申し訳ないとでも思っていそうに行く当てもなく、忙しない。
素直な性格なのだから、こういうときにも素直に頼ってくれたら良いのに。そう思いながらも、そんな彼女だからこそ頼ってもらえると嬉しい、のも事実。顔に書いてありそうなくらいにわかりやすい様子を眺めているのも、楽しいし。内緒だけれど。
「えっと、あの。じゃあ……帰りましょうか」
「そうだな。今からだと、日が暮れる前には戻れそうだ」
「ああ、では遠征に行ってた部隊も丁度戻ってくる頃ですね」
歩きながらぽつぽつと他愛ない会話をしていく。
琴音はいつも、彼女を主を慕う刀たちの話をするときが一番楽しそうに見える。ねぼすけを起こしに行ったこと、食事をしたこと、知らないことを教えてやったこと、土産話を聞いたこと。いつ聞いても話題は尽きず、それどころかなおも溢れるように言葉を連ねる。
そんな彼女の話だからこそもっと聞いていたいと思うし、その中に自分もいたいと、思う。
たとえば今日のこととか。何かが変わるような大きな出来事でこそないだろうけれど、いつか彼女が語ってくれたなら。それはとても幸福なことで、自分がそばでそれを聞いていられたらなら、きっとこれ以上はないだろう。
「なあ、大将」
「何でしょう」
「明日もいい日になるといいな」
「……? ええ、そうですね」
いつか彼女が語るかもしれない明日も、輝いていることを願って。
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