「見てください!」
その瞳をきらきらと輝かせた彼女が差し出すそれを見て、ギルバートはぱちりと瞬きをした。
「……これは」
「おにぎりっていう極東のお料理です! ムツミに教えてもらいました!」
そのくらいは知っている、と言おうとしたのだが、キトリーがあまりにも自慢げに言うものだからとりあえず、そうかと頷いてやる。
キトリーが作ったらしいそれは少し不恰好な三角形で、けれど一応は、まあ、おにぎりと呼べる出来に仕上がっている。そしてその彼女には何故か、指だけじゃなく手首などにも米粒、米粒。試行錯誤の結果なのか、ぼやっとしていただけなのか。味見をしたらしく、頬にまでついてしまっているではないか。やれやれ、と思いながらもどこか微笑ましい気持ちになって、ギルバートは口の端を緩めるように笑った。
「キトリー。ほら、とりあえずこっち来い。そんで手を洗ってこい」
「え?」
きょとんと首を傾ぐキトリーの頬を親指で拭う。さてどうしてくれようか、と思ったけれど、周囲に人の気配はない。まあ、いいか。こいつも、あまり深くは考えなさそうなことだし。小走りで手を洗いに行くキトリーの背を見守りながら、ギルバートは米粒をそのままひょい、と口に入れる。
丁度そのとき。その瞬間。突然足を止めたキトリーが、そうだ! と呟いてくるりと振り返った。思わずどきりと心臓が跳ね上がる。いや、いやいや。別に何かやらかした訳じゃないし。何もしていない訳でも、ないけれど。
あくまでも冷静を装うギルバートのそんな心情に気付くはずもなく、キトリーはにこにこと笑って、そしておにぎりを差し出して言う。
「はいこれ、あの、これは実はギルにあげる分だったんです!」
ギルバートの手のひらにおにぎりを乗せると、今度こそキトリーは走っていってしまった。お礼を言う間もなく、素早く。
回るときに揺れたその桜色の髪の隙間から見えた耳が、僅かに赤み帯びていたのは、気のせい、だろうか?
「…………あとで、お礼言っとかねえと」
上がった熱を隠すように、空いている手で帽子を押し下げる。
ギルバートの手に比べると大分小さなおにぎり。一口かじってみると、ほんのりとしたしょっぱさが、なんだか少し甘い気がした。
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