あまりに。あまりにも彼女が、甘く、無防備に笑うものだから。警告のつもりで、その小さな身体をそっと抱き寄せ腕の中に閉じ込めた。力を込めながら、けれどすぐに振り解ける程の強さで。
部屋で二人きり、なんて状況。ちょっとくらいは危機感を持ってくれと、割と切実に思っていた。思っていたというのに。一瞬だけ驚きと緊張に固まったキトリーは、あろうことか、ぎゅっと抱きついてきたのだ。身体を寄せて、寄りかかると言っても過言ではないくらいの様子で。さすがにそのくらいでよろけはしないけれど、もっと別の、心の中の何かが大きく揺さぶられる。ような気がした。
「……キトリー」
「はい!」
見上げてくるその、屈託のない純粋な目があまりにも眩しい。世間知らず……いや、彼女の場合は異性を知らないだけか。見ていて大変危なっかしい。全く、もし目の前の男に襲われでもしたらどうするんだ。
「ギル、どうかしました?」
「……いいや。何でもない」
察してなどもらえないこと、既にわかりきっている。何でもない。何でもないと言い聞かせる。だからどうか、自制が効かなくなる前に。そう思うのにどうしても彼女のことを突き放せない。離せない。まだここにいて欲しいと、思ってしまう。ハルさんにでも知られたら青いなってからかわれそうだ。全く。自分ではもう少し大人だと思っていたのに、結局蓋を開けてみれば、その程度。どうしようもないものだ。
だからせめて、これ以上どうしようもなくなってしまう、前に。自分を見上げてくるその瞳から隠れるようにしてギルバートは彼女を強く抱きしめた。
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