多くの神機使いが行き交う極東のラウンジ。その片隅に、ちらちらと注目を集めながらその人はいた。周囲からの視線に構うことなく、ぱらりとめくる本の中の文字を追い続けて。
ラウンジをぐるりと見回しその人を見つけたシエルは、先ほど渡されたサンドウィッチを手に、真っ直ぐと迷いのない足取りでそちらへと近づいた。
「……お疲れ様です、ジュリウス。軽食をお持ちしました。ムツミさんが心配していましたよ、ずっと何かやっている、と」
「ああ……シエルか。すまない。集中していたものでな」
皿を受け取るとジュリウスは軽く向かいの席を指して開いていた本を閉じた。
失礼します、と指された場所に座ったシエルは、ちらりと背表紙に視線を向ける。続けて机の上に積みあがった本の山にも。……どれもこれも、農作に関するもののようだ。
「聖域についてですか」
「そうだ。前回の反省から得た疑問の解消と作物に関するより深い知識をと思ったのだが。これがなかなか、深い」
目を伏せて口端を結ぶジュリウスのその表情は、なんだか少し新鮮で、どうしてだかそれが嬉しかった。ああ、楽しそうだ。そう感じられるからだろうか。それは、自分にも覚えのあるものだ。誰かに教えてもらった感情で、誰かと共有し得る気持ち。
「そういえば、隊長が次に植えるのは皆が食べたいものにしようと言っていたな」
「それは、彼女らしい提案ですね。候補は挙がっているのですか?」
「ああ。季節に合うものからいくつか独断で選んだが、最終的にはブラッド全員で決めようと思っている」
手書きでまとめられた資料を差し出されて、その丁寧さに思わず息が漏れた。種類、育て方、注意点。簡潔でありながらも至極わかりやすい言葉選び。彼は画像があればもう少し、と言っているが、これだけでもある程度の想像はつく。それに。ジュリウスの行動の一つ一つ、そのどれを取っても根の部分には必ず仲間への想いが感じられた。どれだけ大切に思っているかがよくわかる。
「……いいですね」
穏やかな気持ちで微笑んで、シエルはその指の腹で文字をなぞる。
これからのことを思うと楽しみで楽しみで仕方がなかった。そうだろう、とどこか得意げなジュリウスも同じなのだろうと思う。
ああ、幼いあの頃はついぞ思いもしなかったものだ。こんな風に、この人と、仲間たちと笑い合う日が来るなんて。
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