自室へと戻ってきたキトリーは、服に皺が寄るのも構わず倒れるようにしてベッドに飛び込んだ。
心臓が、いつになくどきどきしている。まるで全力疾走をした後のようだ。確かに少し早足で歩いていたけれど、でも、そうじゃない。それじゃない。枕に顔を埋めながら、キトリーはうう、と唸った。
つい先ほどの出来事だ。仕事を終えて帰ってきたキトリーは、丁度通りかかったらしいギルバートに話しかけられ、立ち止まった。何気ない、日常。他愛ない会話。確か、今日は調子が良かったとか、良い素材が手に入ったとか、そういう話をしていた。そのときの自分の様子は、今思い出してみると随分とはしゃいでしまっていたように思う。それほど、出来が良かった。
まあ、それは、うん。すっごく落ち着きがなくてよくないけど、とりあえず、いいとして。そのことが思いっきり伝わってしまっていたらしく――いや、とってもわかりやすかっただろうけれど――彼は、ギルバートは、僅かに目を細めて笑いながら、キトリーの頭をぽんと撫でたのだ。突然。不意に。あああ、もう。思い出すと胸の奥の方がくすぐったい。疼くみたいに、きゅっとする。一体なんだろう、この感じ。初めて経験するそれに、キトリーは完全に戸惑っていた。
「なでられた……だけ、なのに」
単純な接触。コミュニケーション。それだけ、それだけのはず! ううう。どうしよう、次にどんな顔をして会えばいいのかがよくわからない。今までどんな顔してたんだろう。
考えて考えて、頭の中がごちゃごちゃになっても、それでも柔らかな布団と任務後の疲労感は睡魔となって、キトリーに襲い掛かる。段々瞼が重たくなって、上手く思考が働かなくなる。瞬きの回数が増えて、そうして、そのまま目を閉じた。
戦場に私情を持ち込まない、いつか、教えてもらったこと。"起きたときに全部忘れていられたら"が彼女の場合は本当に実現できる。そういう性格をしている。それは果たして幸か、不幸か。神機使いとしてはとても良いことなのだろうけど。
だけどそれでも。きっといつか、たくさんたくさん積み重なったそのときに、彼女は気が付くことだろう。だからそれまでは、まだもう少しだけこのまま、眠ったままで。
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