*若干RBネタバレ
幸せそうに食うもんだ。彼はそう言って、目を細める。頬杖をついて、こちらを向いて、時折自分も自らが作ったそのお菓子をかじりながら。
「ふう……。ごちそうさまです!」
「ああ。……しかし、いつもよく食うな。たまには別の味を、とか思ったりしないのか?」
「別の味ですか?」
「味、というか別の菓子だな。俺は教わって作れるようになったのがこれくらいで、他のと言われても用意できるかはわかんねえけどよ」
ふんふん、うーんと。ぱちぱち瞬きをしながら頷くキトリーがいまいち話を飲み込んでいないことはギルバートも気づいているだろう。そのなんとも言えない苦みを含んだ曖昧な笑いは、そういうことだろうから。
給料入ったし買うという手もあるが。それでもなお話を進めると、ようやくキトリーも理解したのか、小さく口を開いてその呼吸に「おお」と声を混じらせる。
「いいえ、わたしはギルのこのブラウニーが好きなんですよ」
「いや飽きるだろ、さすがに」
「そうですね、だからたまにでいいんです。こんな感じで、たまにお昼に時間があったらって」
ブラッドは神機使いとしてだけじゃなく、各々色んな仕事、趣味、そのほか何かしらの活動をする。勉強、研究、合間に睡眠食事、最近は聖域での農業だってある。
合わせようと思わなければ休日どころか食事の時間だって合わないこともあるし、遠征のミッションに別チームで出てしまえば同じ所属といえど数日会えないこともある。
そんな中で一緒にいられる時間、そこで一緒に食べるブラウニーはとてもとても、おいしくて、嬉しくて。
「それに、一緒に食べてるとき、あのさっきみたいに。ギルが笑ってるのを見ると、元気になるんです」
彼はキトリーの表情を見て幸せそうと言うが、キトリーから見たギルバートだってそうだ。とても、優しい顔。見ていると、あったかい気持ちになれるような。
だからきっと、わたしが幸せそうな顔をしているのであれば、それはギルが。
「…………なんだそれ」
結構真剣に言ったつもりだったのが、笑われてしまった。
急に恥ずかしくなってきて、誤魔化すようにキトリーもへへ、と調子よく笑ってみる。すると唐突に伸びてきた大きな手のひらが、桜色の頭を少し乱暴にわしゃわしゃと撫でた。
「お互いに同じこと考えてるとか、なんだよ、それ」
「え、なんですか、きこえな、わあっ」
「独り言だ、独り言!」
上げようとした頭をぐりぐりと押さえつけるようにして執拗に撫でるギルバートのその照れた表情、照れ隠しに、キトリーは気づかない。
ぐしゃぐしゃと乱れた髪からするりと赤いヘアピンが滑り落ちる。空になったブラウニーの皿をからんと鳴らしながら。
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