「あの、朝早くにすみませーん。起きてますかー」
控えめなノック音と間延びした声に呼ばれ、丁度着替えを済ませたギルバートは振り返った。声の主はおおよそ見当がつくが、わざわざこんな朝早くに、一体何の用だろうか。扉に、扉の向こうのその人に向けて短く返事をしてやると、すぐに来訪者は部屋へと入ってきた。
「おはよーございます、です。ギル」
「キトリー。……どうした、急用か?」
はい、とキトリーが頷いた。何やら神妙な面持ち、真面目な声色だ。……何の話だろう。ブラッドについてだろうか。
咄嗟に色々と思考を巡らせて軽く身構えるギルバートに対し、キトリーはきゅっと結んだ唇からまるでぽろぽろと雫が滴るような声量で言葉を紡ぐ。
「……ええっとですね。その、夢を、見て」
「夢?」
聞けば、どうやら彼女はギルバートがブラッドから突然いなくなってしまった夢を見たらしい。心当たり、は考えるまでもなかった。誰も口にはしないが、誰しもの心にぽっかりと大きく開いた、二人分の寂しさ。なるほど、とギルバートは頷いた。夢の内容に不安になって、わざわざ会いに来た少女。慰めるように優しく頭に手を乗せる。ぽんぽん。大丈夫だ、と声を掛けて。
「俺はいなくなったりしねぇよ」
「はい……」
「どうした、まだ不安か?」
「…………いえ。ちゃんと、会えたから」
そうはにかむキトリーは、よく見れば後ろ髪が少し跳ねている。寝癖、だろう。服装もいつもより軽いもののように思う。起きてすぐここに足を運んだことが伺える。
いくら気丈に振舞っていようと、やはり中身は少女なのだと改めて思った。他の二人もそうだが、特に彼女は頼られることが多い為か弱音を吐かない。聞き上手なのだろうと思う。彼自身身に覚えがある。つい、弱い部分も見せてしまう。彼女は常に、どんな思いも聞いて、支えてくれて。そんな彼女だからこそ、支えてやりたいと、思って。
「あのう、ギル。一つお願いしてもいいです?」
「何だ」
「今日……あ、やっぱりちょっとだけ、でいいので、傍に居てもいいですか?」
言いかけて止められた言葉を、ギルバートは聞き逃しはしなかった。仕方のないやつ。
一日中、はお互い難しいかもしれないが、可能な限りは。そう答えてやると、目に見えてキトリーの表情がぱあ、と花咲くように明るく輝く。そんなに喜ぶなら、最初から遠慮なんてしなければいいのに。しかし真面目で他人思いな彼女のことだ、なかなか言ってはくれなさそうだ。
それに遠慮せず言われることで――頼られることで、嬉しいと感じるのは、きっと自分だ。
ありがとうございます! と笑っているキトリーの頭を見ていると、どうしてだか、そんな気がした。
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