「ジュリウス」
その腕に抱いた彼女に、名前を呼ばれる。目が合った瞬間ほんのりと朱色を刷いた頬を綻ばせ、ノルンは再びジュリウスを呼ぶ。とびきりに甘い声はまるで魔法のようにきらきらと響いて、綿毛のような柔らかさで耳の奥をふわりとくすぐった。
「随分と機嫌が良いな」
「ふふ。お慕いしている殿方と二人きり、こうしていられる時間ですもの。女の子が心ときめかせるのは、至極当然のことですわ」
胸元に耳を当て擦り寄るノルンに、ジュリウスは少しだけ困っていた。今すぐにでもどこかに奪い去ってしまいたいような、もちろんそんなことは出来ないのだけど、だからこそ行き場のないこのどろりとした感情を持て余しているのだった。甘やかな気持ちから生まれてくるはずの感情、それなのにそれはまるで煮詰めすぎたジャムのよう。
けれど上機嫌な彼女は、歌を口ずさむリズムで笑うと、言った。
「わたくし……あなたのその少しだけ困った表情、割と好きですのよ」
にんまりと、悪戯が成功した子供の無邪気さで。思わずどきりとしてしまったジュリウスのその心情すら見抜いて、いいや、聞いていたのか。速度を急に上げた鼓動のスピードも、きっと耳を寄せる彼女には全て聞こえているはず。だからこんなにも楽しげに、とても楽しげに笑っているのだろう。
やれやれ、半ば降参しながらジュリウスは力なく笑った。いつだったか。ジュリウスはいつも余裕そうですわね、なんて拗ねたように言われたこともあったが、内心そんなことあるもんかと思っていた。少し見栄を張って言いはしなかったけれど、本当は余裕なんてほとんどない。恋愛における駆け引きだってあまり得意ではない。アラガミとの駆け引きの方がよっぽど得意だ。
「……敵わないのは俺の方だな」
小さな小さな呟き。ふと上を、ジュリウスを見上げる彼女は果たしてそれを拾ったのか、そうでないのか。微笑んだまま、言葉はない。けれどなんとなく察してジュリウスもただ笑みを返した。
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雪音様宅ノルンちゃんお借りしました!
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