うっすらと聞こえる規則正しい呼吸の音。机に散乱した大量の報告書。それだけでギルバートにはおおよその、この状態に至るまでの経緯が予想できた。
やれやれと肩を竦めると羽織っていた上着を彼女にかけて、机の上を整理する。よくもまあ、こんなに仕事を溜め込んだものだ。……いや、彼女は別にデスクワークが嫌いな性質ではない。ただ少し抜けているというか、現場で頼りにされるが故にこれらを片付ける前に次の仕事を請け負ってしまうというか。まあ、つまるところは。
「頑張りすぎだ」
すっかり夢の中の彼女に向かって、忠告じみた文句とともに軽く握った手をこつんと落とす。うう、と身を捩る様子を見せるも目を覚まさない辺り、きっと相当疲れていたのだろう。これは、ちゃんとベッドで寝かせてやった方がいいかもしれない。綺麗に積み上げた書きかけの報告書の山を一瞥して、しばし思案する。
彼女の厄介なところというと、仕事において世話を焼かれるのが少し苦手なところだ。
素直に甘えてくれない、というか、自分の仕事に関しては他人の手を借りようとしない。にも関わらず疲労を隠すのはあまり上手くないときた。少なくとも、ブラッド隊員は確実に見抜ける。ここでギルバートが色々してしまうと、また彼女は余計に気を張ってしまうだろう。……ああ、まったく、厄介な話だ。気を遣うことに気を遣うなんて。
「……見張っとくか」
未だ眠り続ける彼女の横に座り、ギルバートは端末を取り出す。しばらくして起きなかったら飯とでも言って起こせばいいし、そのあと適当に言いくるめて休ませればいい。結局、そういうことにした。
今度、ハルさんを誘って飲むかな。頭の片隅に残るあの優しい笑顔を思い浮かべて、重ねて、ギルバートは少しだけ困ったように笑った。
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