強くしがみついてくるその手に、己の手を重ねる。背中に感じる、柔らかな彼女の温もり。
抱きしめ返そうにも離れてくれなくて、どうしたものかと苦笑した。キトリー。名前を呼ぶと彼女は小さく首を横に振って、しがみついているその腕に力が加えた。……それだけ。
そりゃあ、無理矢理剥がして正面に向けることくらい、きっと容易いのだろうけれど。怖がられやしないだろうか、なんてちょっとした不安。大事にして、やりたい。そう思っている。思っているけど、それは確かなのだけど。
「ギル、は。ギルは、わたしに対してとっても、やさしいです」
「……ああ、まあ。な」
あからさまに不満そうな声。その意味がなんとなくわかってしまって、だからこそギルバートは苦い表情を浮かべる。
「やさしくしてくれるの、嫌なわけじゃないです」
「そうか」
「でも。その。あのね、わたし、ギルに触られるのすきです」
キトリーがその頬をギルバートの背中に擦り寄せて、言う。声が持つ甘い響きは容赦なく理性をぐらりと揺らした。あんまりそういうことを、不意に口にしないでほしいのだけれど。赤く火照った顔が締まりなく緩んでしまいそうで、ギルバートは口を堅く結ぶ。瞬間、キトリーがはっと息を呑んだ。
「あ! あああああの、さわ、触られるって、えっと、そういうの、じゃなくて……!」
呆気なく。あれほど意固地だったのが嘘だったのじゃないかと錯覚してしまいそうな程あっさりと。腕が離れた。その隙にすかさず、彼女の方へと振り向く。真っ赤な顔。否定を示してぱたぱた揺れる両手。考えるよりも先に腕を伸ばして、キトリーを抱きしめた。彼女は肩口に顔を埋め、唸っている。相変わらずよくわからないけれど、彼女の中で恥ずかしいこととそうでないことの境があることだけはなんとなくわかっていた。
「……ほんとは」
突然。ぽつり、と彼女が小さく言葉を溢す。
「ギルに、わがままを言ってもらいたかったんです。……いや、そうじゃなくて。うんと。つまりですね?」
「ああ」
「その……が、がまん、しないでください」
少しだけ離れて、キトリーはギルバートを見上げる。上目遣い。……我慢するなと言われても。この、状況で。その言葉が意味するのは。
異様なスピードで巡る思考。煽られる本能。ふらふらと引き寄せられるかのように唇を重ねると、ぷつり、と張り詰めた何かが切れるのを感じた。隙間から舌を捻じ込んで、貪るようなキスをする。厭らしい水音が響いて、合間で、熱っぽい呼吸。頭が麻痺してしまいそうな時間。
「……っはぁ」
「キトリー。……一応先に言っておくが、煽ったのは、お前だからな」
ゆっくりと押し倒して、今度は軽くキスをしてやる。蕩けるような表情で頷く彼女は力なく頬を緩めていて、それで微笑んでいるつもりらしくて。
どうやらするまでもなく、我慢、出来そうもない。
「痛かったらすぐ、言えよ。手加減、出来そうにねぇんだ」
「ギルだから痛くても、わたし平気ですよ」
……全く。こいつはどうしてこうも、煽るような言葉ばかりくれるのか。
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