「辛気くせぇところだな」
呟きながら、ギルバートは神機を片手に辺りを見回した。そうですか? と首を傾げるキトリーも、彼に倣って周囲をぐるりと見遣る。アラガミの気配はもうすっかり消えた鎮魂の廃寺。今は二人、帰投の準備が整うのを待っているところだ。
「アナグラの賑やかさに、もうすっかり馴染んじゃいましたからねえ」
「ああ……、そのせいもあるかもな」
あ、そういえば。何かを思い出したらしいキトリーが呟いて、言う。
「支部長さんに聞いた話なんですけど、この辺、昔は"桜"って花がいっぱい咲いてたみたいですよ」
「桜?」
「わたしもどんなお花なのかはよくわからないんですけど、とっても綺麗なお花らしいです」
ふふ、と笑うキトリーはどこか嬉しげに見える。そのことをギルバートが指摘すると、彼女はちょっとだけ驚いた顔をして、それから、あのですねと話を続ける。小さくて白い手で、自身のその髪をそっと掬い上げながら。
「似ているそうです」
「……髪が、か?」
「はい。桜は、こんな色なんですって。木にたくさん咲いて……そうですね、わたしの後姿、後頭部のような感じなんでしょうか?」
くるりと後ろを向いたキトリー。流れで、ギルバートはその頭へと視線を向けた。……でしょうか、と言われても肯定も否定もできるはずがない。彼自身もその花のことはよく知らないのだ。ギルバートは曖昧に笑うと時間を確認した。
「今、何時です? ……そろそろ帰れますかね?」
「そうだな、合流地点に向かうか」
「はい!」
元気よく頷いてから、キトリーはぴょこんと駆け出した。ミッション後だというのにどうやらまだまだ元気らしい。さすがというか、なんというか。彼女を追い歩き出しながらふと、ギルバートは上機嫌に揺れる彼女の髪に注目した。気になってしまうのは、話をしていた直後だから、だろうか。
キトリーが歩くたびふわふわと動いて、その様子に、見たこともないその花が咲く光景を見る。当時はきっと、たくさんの人たちの目を奪って、咲いて。……そう思うと、なぜだかギルバートは妙に納得をしてしまっていた。後姿。いいや後頭部だったか。
「よく似てるのかもしれねぇな、桜」
もしもここにそれがあったとしたら。きっと自分はこんな風に、その花を見ていることだろう。
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