「キスだけなんですか?」
小さな声で呟かれたその言葉に、思わずどきりとしてしまう。突然、何を、そんな。動揺を必死に隠すギルバートの隣でキトリーはぷ、とその柔らかそうな頬に空気を含ませて言う。
「キスしか……しないんですか」
「……逆に聞くが、お前は、それ以上のこともしたいのか?」
したいって答えられたらどうしようか。そんなことを考えてしまって、ギルバートは揺れる理性が崩れてしまわないようどうにか保ちながら、横目にちらりとキトリーの様子を確認する。
「…………」
「なんで自分で言って照れてんだ、お前は」
「……うう」
思いっきり目を逸らされた。顔ごと、それはもう大袈裟な程に。けれど、桜色の髪の隙間から真っ赤に染まった耳が見えていた。隠せてない……とはせめて、言わないでおこうか。
仕方ない奴。そう言いながらも、ギルバートの鼓動はまだ、その速度を殆ど落としていない。まったく、仕方がないのはどっちやら。
けれど。でも。恋人にあんな風に突然、言われて。それで動揺しない男が果たしているだろうか。少なくとも、彼は、あれで完全に揺れてしまっている。
「……今は、ってことにしてくれないか」
「?」
「キスだけ」
きょとんとしているその唇を素早く奪ってから、ギルバートは立ち上がった。どこに行くというわけでもないが、ここにこのままいたら何をし出すかわからない。勢い任せになるのは、大変、不本意だ。
「ちょっと、出てくる」
「……はい。いって、らっしゃいです」
背中越しの声は心なしかいつもより小さくて、どうやら、まだ照れているらしかった。
部屋を出てから、ギルバートは思いっきり大きく長く、息を吐いた。危なかった、とても。……どうやら、思ったよりも自分の自制心は強くないらしい。なんとも格好がつかない話だが。
ふ、と頭の奥で再生される、先ほどのキトリーの言葉。照れた様子。全く困ったものだ。もしかしたら今持ち合わせている、この程度の自制など、大して役に持たないかもしれない。
もしも、本当にそうだったら。そうなってしまったら。彼女を大切にしたいと思っているこの気持ちが否定されてしまうのだろうか。彼女に、あるいは自分自身に。
それが、仄暗い不安となってギルバートの心に僅かに影を落とした。
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