「ジュリウス、質問なのですけれど」
ノルンの唐突な問いかけに、ジュリウスは読んでいた本から顔を上げた。
二人並んで腰掛ける木の根元。フライヤの中でもとっておきの、お気に入りの場所。花に囲まれてそこに佇むノルンは、恋人の贔屓目抜きにしても、非常に絵になる。
「どうした?」
「何の脈絡もないことは重々承知しておりますけれど、あの。ジュリウスはいつから、わたくしのことを好きに?」
尋ねてくる彼女の、その少し恥ずかしそうに上気した頬と、おずおずとした様子。なかなか、滅多に、お目にかかれるものではない。もちろん、他の人間が見られることもない。希望、では、あるけれど。
しかし、ふむ。好きになった時期。改めて思い返せど、なかなか思いつかない。あまりそういった線引きを意識していなかったから、だろうか。……彼女は、どうなのだろう。少し狡い返答ではあるが、聞いてみることにして、ジュリウスは言葉を作る。
「ノルンはどうなんだ?」
「え! わ、わたくし……ですか」
「ああ。いつから、好きに?」
顔を近づければ、それだけわわわと慌てる彼女の様子に、つい悪戯心を擽られてしまう。柔らかくも上機嫌に笑むジュリウスのその心に気付いていないのか、ノルンはまるでりんごのような頬でむむ、と思案している。が、しばらくそうした後にふと、はっとしたような表情を浮かべた。何か思い当たったのだろうか、なんて予想をしながらも彼女の言葉を待っていると。
「秘密……そう、秘密ですわ!」
「ふ、なるほど?」
「な、なんですの、その顔は」
「では、俺の答えも言おうか。"秘密"だ」
くつくつと楽しげな笑い声を残して、ジュリウスは再び本に目を向ける。隣から聞こえてくる「ずるいですわ、その答え!」の声を敢えて、聞き流しながら。
すると、何を言っても効かないと思ったらしい。もう一度、ずるいですわと小さな声で呟いて、ノルンは黙り込んでしまった。……少し、意地悪が過ぎただろうか。ちらりと本を読むふりで彼女の方を伺い見る。表情はいつもとそう変わらないけれど、纏う雰囲気がどことなく元気がない。さすがに、彼女にそんな思いをさせるのは本望ではない。
「ノルン」
名前を呼ぶと、ノルンはすぐに顔を上げた。その頬に、素早く、キスを落とす。息を呑む音。呆気に取られてぽかんとする彼女を見て、ジュリウスは笑った。とても愛おしそうに、目を細めて。何か言いたげだったノルンだったけれど、結局言葉は出てこなくて、赤い顔でただ微笑んだ。つられて。伝染。同じ思いを抱いている相手に。水溜りが空の色を映すように。
「……まったく、仕方のない方ですわね」
「その言葉、褒め言葉として受け取っておこう」
それっきり、会話は途絶えた。静寂。けれど居心地は悪くない。寧ろ、贅沢だとすら思える。こんな風に時間を使うこと、きっとなかなか出来ることじゃない。
だから今、今だけはせめて、このままでいたい。思い、無言のまま隣にいるその体温に身を寄せる。きっと彼女も同じことを考えている、なんて、自惚れながら。
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雪音様宅ノルンちゃんお借りしました!
*title by メロウリップ
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