*若干桃イベントネタバレ
散歩をしていたレーガが見たのは、彼女であるミノリと、彼女に何かを差し出している男性の姿だった。
いつも通り穏やかに流れる川にかけられた橋の上、想像が出来なかったわけじゃないその光景は、それでも少なからず彼に衝撃を与えた。
男性自体は全く知らなかったが、彼が浮かべる表情には覚えがあった。それがどうにも気に食わなくてレーガは二人の、ミノリの方へと足を進めようとする。
けれど、直後に聞こえてきたミノリの声に、彼の足はぴたりと歩みを止めた。
「――すみません、お気持ちは嬉しいのですが、わたしにはとってもとっても、大切な人がいるんです。だから、それは受け取れません」
普段のおっとりとした、のんびり屋の彼女からは想像もつかない程にはっきりとした声だったものだから、思わず怯んでしまったのかもしれない。
心の内に広がったもやもやとした気持ちが、このたった一瞬で、あっという間に薄れていく。
名指しで言われた訳でもないけれど、『とても大切な人』が自分であると確信して、すっかり舞い上がってしまっていたのだ。
「ミノリ」
「わあ!?」
男性が去っていったのを見計らい、レーガはすぐさまミノリに近づき、その背に声を掛けた。
レーガくん、と振り返った顔は驚いていた。その目が、見てたの、と真っ直ぐに問いかけてくる。小さく頷くと、途端に彼女はほんのりと染まった頬を両手で覆い、ううと小さく唸った。
「はずかしい……」
「ごめん、立ち聞きはさすがに趣味も行儀も悪いよな」
「ううん。レーガくん、謝るってことは、悪気はなかったんでしょう?」
ミノリの視線が気恥ずかしそうに辺りを彷徨う。両手が離れていった後も、その頬にはまだ朱色が残っていた。
会話が途切れる。お互いに次の言葉を捜して、唇を結んだまま。
彼女は可愛い。それは、恋人であるレーガが一番よく知っている。つもりだ。
だけど彼以外にもその魅力に惹きつけられる人は必ずいる。今回の彼のように。
それを実際に目の当たりにして、改めて実感をさせられた。同時に、ようやく、いつかの彼女の言葉が本当の意味で理解出来たような気がした。
「……ミノリさ、」
「うん?」
「前に言ってたじゃん。構って欲しいって」
「……そ、そうだね」
「なんとなく、あのときのミノリはこんな気持ちだったのかなって、勝手だけど、今思ってる」
言い終えて、レーガは目線を斜め上に上げた。自分を見つめるミノリの視線と合うのが少しだけ恥ずかしかった。今目が合うと、きっと照れてしまうから、なんて悪あがきのようだけれど。
「レーガくん、あの、もしかして……嫉妬してくれたの?」
「う……」
「…………」
「かっこ悪いって思うか?」
「お、思わないよ! そんなこと!」
両手を振って否定するミノリの様子があまりにも必死で、レーガは思わずくすりと笑みを溢した。
もう、と頬を膨らませる彼女はやはり可愛かった。目を逸らしているのが、とても勿体無くなってしまうほどに。
「オレが言うのもなんだけどさ、恋人が他のヤツに告白されるのってほんとすっごい焦るもんなんだな」
「そうだよ、わたしなんていっつもだよ! 日常茶飯事だよ!」
「いや、さすがにオレも毎日は告白されねぇよ……」
「ふふふ。でもね、わたしはレーガくんのこと信じてるから、だから、すっごく焦るけど、いいの!」
そばにいるよ。にこりと笑う彼女のその言葉は、あの時レーガが彼女に伝えた言葉そのもので。不覚にもどき、と心臓が大きく跳ね上がる。
ほんと、そういうのは反則だ。負け惜しみのように呟きながら、レーガはミノリに向けて両腕を伸ばす。
今日は彼らの間にテーブルなど、障害物がない。その為ミノリは、ただ引かれるがままにその身体を傾けて彼の腕の中へ。
レーガが素早く彼女の顎を掬い上げると、至近距離で、二人の目が合った。
「……文句は、後で聞くな?」
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