レーガくんはとても格好いい。
真っ白なクリームの上、お上品に飾られたいちごをフォークでつんとつつきながらミノリは無性に溜息を吐きたくなった。
出されたケーキを食べると、牧場のお仕事で疲れきった身体の隅々までじんとその甘さが染み渡っていって、それはそれはもう、幸せの一言に尽きる。
ミノリは仕事柄泥だらけになることもよくあるし、(よく川で素潜りもするし、)普通のかわいい女の子が絶対に持たないであろう道具を(これでもかってくらいに)振り回すし、だけど、この一瞬だけは、牧場主のミノリではなくただ女の子のミノリとしていられるような気がして、だから一日の中でもおやつを食べるこの時間は彼女にとってちょっぴり特別な瞬間だった。
おいしいご飯を食べると元気が出るから、とミノリは牧場主として働き出してからよくこのレストランに通っている。
店主のレーガは、一言で言うとすると、とにかく女の子に人気がある人だ。
見た目はもちろん、性格も良く話し上手で、時々発する言葉が妙に格好良くて、ああこういうところが人気なんだろうなあ……と納得をしたミノリも案の定、なんて。
「……ほんとずるいなあ、レーガくんは」
「ん、ミノリ、何か言った?」
「ケーキ美味しい!」
「はは、なんだそれ。でも、褒めてくれてありがとな」
キッチンからこちらを見て笑っているレーガに、ミノリは大きく跳ね上がった心臓を隠すようケーキを頬張った。
あからさまに目線を逸らしたことにしまった、と思いながら甘味を咀嚼する。ああ、またやってしまった。あの優しい瞳に見つめられると、魔法がかかったように体が緊張してしまって、上手く言葉が出てこなくなってしまうのだ。それはもう、きっと誤魔化しようがないくらいに、あなたのことが好きですと告げるに等しいくらいに、動揺をしてしまうのだ。
もう大人なのに、いい年して情けないものだ。メルティちゃんにバレたら笑われちゃうかな。それとも励まされちゃうかな。どっちにしろますます情けない話である。
「すみませーん、注文いいですかぁー?」
「はい、すぐにお伺いします!」
レーガの目線が離れていったことに、どうしようもなくほっとしてしまう。
こんなんじゃだめだとはわかっていた。慣れるしか、ない……けど、まだ全然慣れてくれない。困ったものだ。せっかく用意している指輪だって、こんな意気地なしの鞄に入れられっぱなしなんて嫌だろうに。
接客をしているレーガをこっそりと見つめて、ミノリは一度自身を落ち着かせようと深呼吸をする。
ううん、弱気になってどうする。しっかりしろ、ミノリ。何のためにいつも指輪を持ってここに来ているの。今日こそ思いを伝えようと、意気地なしから卒業して一歩を踏み出そうと、そのためにでしょ!
ころんと最後に残っていたいちごを口に放り込んで、決意と共に飲み込む。
「……よし、がんばらなくっちゃ!」
けれどその呟きに注文を持って戻ってきたレーガが「どうした?」と顔を覗きこんでくるものだから、ミノリはまた、声を上擦らせながら目線を背けてしまうのだ。
(ちっ、近いよレーガくん……!)
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