温かな日差しの中、ふわりとバニラの香りが鼻腔を擽る。
「それ、」
可愛らしい淡い桃色のラッピング。彼女の手のひらにちょこんと乗っかったそれを視線で指して、何かと訊ねる。まあ、十中八九、その中身はお菓子だろう。それも焼き菓子。例え彼が料理人でなかったとしても、その中身は想像に容易い。
「クッキーだよ。この町に来る前に好きでよく食べていたのだけど、ここに来てからは全然。さっき偶然見かけて、懐かしくなって買っちゃった」
ふうん、と相槌を打ちながらリボンを解く彼女の指先を見つめる。すると、欲しがっていると思われたのか、ミノリはクッキーを一つ取り出すとそれを差し出した。レーガが口を開くと、当然のようにそこへころんと放り込まれる。
「どう?」
「美味しい、けど」
「けど?」
「オレの作ったやつのが美味しい」
言いながら、レーガはミノリから袋ごとクッキーを取り上げそれをポケットに仕舞いこんだ。没収。心なしかその声は不機嫌さを滲ませているように聞こえて、ミノリは不思議そうに首を傾ぐ。
「……やきもち?」
「う、いや別にそんなことは」
「やきもちだ」
「ミノリ」
「クッキーにやきもちって。ふふ」
「ミノリ、それ以上言うとあとで酷いからな」
むっとした顔のレーガに、さすがにミノリもそれ以上は言わなかった。顔は、笑ったままだったけれど。正直なやつ。
火照った顔を誤魔化すように、レーガも笑う。少し苦味を含んだぎこちない顔で。
「……ミノリ、この後時間あるか?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、クッキー焼いてお茶でもしようぜ。他のに目移りできないくらいとびっきりのやつ、アンタのために焼くからさ」
魅惑的な文句と差し伸べられた手に、ミノリは大きく頷いてはにかむ。繋いだ手をしっかりと握って、目指す先はレストラン。
とある春の、甘やかな昼下がりの出来事。
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