「ナディくん」
ミノリは彼の名をその声で紡いで、返答も待たずそのまま凭れ掛かるようにしてその背中に触れた。
突然だ。予告していたわけではない。それはナディの現在の様子からも見て取れる。冷静を装うことが出来ていない上擦った声。思わずミノリは笑ってしまいそうになる。
彼は不器用だ。手じゃなくて、心の方。
手先は、草花や土に触れる手先は、寧ろ器用だと思う。庭師なのだから当然。それだから庭師である、だから、当然。
そうではなくて、心の方。いくじなしだなんてことは全く思っていない。だってきちんと想いを伝え合って、それでこうしているのだ。こうして、それが嬉しくて。
ぱっと背中から離れて、ミノリは彼の前方へと回り込む。目線が合う。けれどそれはすぐに逸らされてしまった。
小麦色で目立たないけれど、その頬は少しだけ朱を刷いたように上気している。……照れている。
「その、びっくりした顔」
「……オマエ、楽しんでるダロ」
「うん」
「ハァ……」
思案するその振りさえ見せることなく即答をするミノリに、ナディは溜息を吐く。けれどその表情からは嫌悪など微塵にも感じられず、寧ろそれは、その様子は許容さえ感じられるもので。例え何も知らない通行人がここにいたとしても、二人の関係はこれだけで一目瞭然で。
きっとそんな人が実際にいたら、彼はきっともっと照れるだろうし、それを隠そうともするだろうし、だから声を張り上げるようにして言葉を連ねていくことだろうと思う。二人であればある程度、慣れたらしいのだけれど、第三者の目があるとそういうわけにもいかないらしい。それにそれは、ミノリだって、それなりにだけど、恥ずかしいと思う。
「ホント、唐突なヤツ」
「今更だよ」
「そうダガ……あんまり調子に乗るナ」
ぴん、と額を人差し指で打たれ、ミノリは「あう」と小さな悲鳴を上げた。痛くはない。そのデコピンは力が抜かれていて、ただ軽く、優しく、小突いただけ。
不器用、とても不器用な人。口下手でぶっきらぼう。だからこうしていつも、態度で示してくれる。言葉も、まあ、時々。でもそれが、どうしようもなく幸せだった。
「全く」
「ふふ、ごめんね?」
「…………」
「?」
突然黙り込んだナディにミノリが首を傾げた。きょとんとして、それから名前を呼ぶ。と。ナディが悪戯っぽく笑った。あ、と思うより早く、額をふわりと掠めるようにして唇が落とされる。
「わ」
ぽかんと呆けている彼女を見て、ナディはしてやったりと笑った。お互いにほんのりと頬を染めて、照れながら。
なるほどこれは楽しいと呟く彼にミノリはただ、そうでしょうと首肯するしか出来なかったのが、自分から仕掛けた分余計に、悔しかった。
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