状況がよくわからなかった。いまいち頭の回転が鈍い。どういうことだろうか。破片のような情報でごちゃごちゃな頭の中を、一から整理しようとひっくり返す。……ごちゃごちゃが、ごちゃごちゃになっただけだ。何も変わらない。
瞬きを合図に。合図に、ぱちんと目が合う。距離にして数センチほど。ええ、結局、何。何。
「なに……?」
「何、って、……」
罰の悪そうな顔が見えて。青の双眸が、彼の瞳が、僅かに揺れる。言葉を選んでいるのが見て取れる。うん、いや、そうだけどそうじゃなくて。
背中に感じる堅い感触。温度のない、冷たい、壁。壁と背中合わせのわたし。
正面は……ほんの少し、距離にして一歩にも満たないくらいのそこに彼。このレストランの主、レーガその人。ミノリの頭のすぐ横に手をついて、それで見下ろしている。何故。どうして。そういう状況に?
「あっ、あー…………その」
「うん」
「ミノリ、が可愛くてつい……」
「つい?」
「…………ごめん、オレが悪かったからほんと、今そんなに見ないで」
結局よくわからない。つまり、ええとどういうことなの。ねえ、と見上げると彼はもう一度ごめんと呟く。力なく笑う。彼が何を思って謝罪を繰り返しているのかもわからないけれど、その様子はどことなくしょげているように見える。あ、全力で走って転んだときのペットのわんこと、ちょっと似てる。……かわいい。
「よしよし」
「わ、何。どうしたんだ?」
「頭を撫でているんだよ」
ふわり。赤みがかった茶色の髪は触り心地が良くて、思わず、ミノリは頬を緩める。されるがままのレーガが何かを言いかけたけれど、結局言葉はなかった。代わりにほんの僅かに苦味を孕んだ微笑み。
「ミノリ」
「なに?」
「……チョコ、食べる?」
「わー、食べる食べる!」
レーガは壁についていた手を退け、そのままどこかに持っていたらしいチョコレートを取り出した。一口サイズの小さなチョコレート。包み紙を取ると、彼はそれを親指と人差し指の腹で挟むようにつまんで、「あーん」と言う。口を開けろということだ。言われた通りにミノリはあー、と発声するように開いた。
「おいしい?」
「おいしい!」
「……ミノリが素直でよかった」
「うん?」
ミノリが疑問符を浮かべるように首を傾げると、レーガは何でもないとでも言いたげな様子で曖昧に笑った。
「やっぱり、アンタはもうちょっと、危機感を持とうな?」
「?」
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