朝方から降り続く雪は止むどころか徐々にその粒を大きくしていき、昼を過ぎた今、足が僅かに埋もれてしまうほどに積もっていた。
転倒などして怪我をする生徒がいなければ良いのだが。しんしんと降る雪を見ていた蟇郡は、ふと外に人影を見つけてそちらへ注目した。距離があって何をしているかまでははっきり見えないが、あの栗色の丸い頭には覚えがあった。しゃがみこんでいる。雪遊びでもしているのだろうか。
しばらく様子を見ていると、彼女は急に大きくその身体を震わせた。よく見ると、彼女の服装は長袖とはいえ、制服だった。上着も羽織らず雪遊びなんてしていれば、くしゃみが出るのは当然だ。
やれやれと息を吐きながら、蟇郡は一度、踵を返した。
「……っくしゅ。うーさむーい!」
「当然だ馬鹿者」
雪玉を作りながら何度目かのくしゃみをしたマコは、背後からの声にひゃっと声を上げた。振り返り、自分に向かって歩いてくるその人を視界に捉えると、名前を呼ぼうと口を開く。
が、それよりも先に、ふわりと何かが肩にかけられた。きょとんと首を傾ぐマコに、蟇郡は羽織っていろ、と告げる。
「風邪を引くだろう、気をつけろ」
「わあ、ありがとーございます!」
マコが上着に袖を通すとそれは少し大きかったようで、裾が少し余っていた。もう一つ小さなサイズだったか、と見ていると、多少サイズ違いでも構わないのか何事もなかったかのようにマコは再び雪玉を握り始めた。
そういえば、彼女の傍には小さな雪だるまが幾つか並んでいる。
「これを作っていたのか?」
「はい! せっかく雪がたくさんあるので、みんなを作ろうと思って!」
これが父ちゃんでこっちが母ちゃんで、と指差し説明をするその様子はとても楽しげで、頷いてやるだけで彼女は嬉しそうに微笑んだ。
冬の空気のように澄み切った無邪気な微笑みに、二人を取り巻く雰囲気もふわりと和らぐ。
辺りにじんと響く彼女の声も、心なしか、光を受けて輝く雪のようにきらきらとしているようだった。
「あっ、そうだ。上着のお礼に、先輩にはこれを差し上げます!」
「……これは?」
「その名も『雪だるマコ』!」
ネーミングセンスにつっこむべきかと悩んだが、半ば強引に蟇郡の両手に小さな雪だるまが乗せられた。
マコが両手で持って乗せたのだが、彼の片手に乗せてみると大分小さく見える。……なるほど、『雪だるマコ』。
「そっくりだな」
「そうですか!? やったー! 大事にしてくださいね!」
「ああ、そうさせて貰おう」
蟇郡が頷くとほぼ同時に、予鈴が鳴った。二人揃って「あ」と呟く。ああ、もうそんな時間だったか。彼女といるとどうしてだか時間を忘れてしまいそうになる。時の流れが早い、と感じる。
「満艦飾、そろそろ戻れ。授業に遅刻はしないように」
「はぁい」
スカートの裾についた雪を払いながら、マコは「それじゃあ!」と律儀に一礼してから廊下を駆けていった。廊下は走るな。遠ざかっていく背中をそんな言葉で送ってから、蟇郡も戻るべく足を来た道へと向ける。
時間は殆ど残されていないが、この雪だるまを置いておく場所も決めなくては。彼女に、大事にすると約束したのだ。守らなくてはならない。
雪だるマコ。心の中で一度その名前を呟く。ただの名前。それも、雪だるまの。
……おかしな話だ。
手の中のそれはただただ冷たいのに、どうしてだか、やけにあたたかいなんて。
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