「マコは、いつか大人になって、結婚をして、家族を持つのです。ずっとずっと、憧れなのです。父ちゃんと母ちゃんを見てると、いいなあって思うのです。そりゃあ貧乏だし苦労もいっぱいあるし、だけどわたしは家族がだいすきで大切で、だから、マコもいつかそんな家族を持ちたいのです!」
それが目標で、夢です! と得意げに胸を張るマコを見て、蟇郡は素直に感心していた。
普段の行いのせいか、彼女にはあまり「考える」といったイメージがない。いつも自由で気の赴くままに行動しているように見えるが、それは他者が勝手に想像している満艦飾マコなのだ。いくらか考えを改めなくてはいけない。
「その心意気は評価しよう。だがまだ荒削りで漠然とした部分が多く、いま一つ現実味に欠けるな」
「むむう、そうですか」
「焦る必要はないぞ、満艦飾。まだ時間はある。ゆっくり考えれば良い」
大きな手の平がぽんぽん、と優しくマコの頭に触れる。突然のことに少し驚いたのか「ひゃっ」と短く声を上げたマコだったが、それも一瞬だけで、顔を少し上げると自身の頭を撫でている先輩にその目線を向ける。
「がまごーり先輩の手は、大きくてあったかくて、なんだか安心しますねえ」
父ちゃんみたいです! と嬉しげに言うマコに、蟇郡は離しかけた手を再び彼女の頭に乗せて、そっと撫でてやる。
栗色のまんまるとした小さな頭。その顔に浮かぶ気の抜けた笑みは、見ている方のそれまで根こそぎ抜いていってしまうほど無防備に緩みきっている。まるでバニラのアイスクリームがふわりととろけるような、甘い笑み。
「先輩は、きっと良いお父さんになれますよ」
「父、か……」
「子供ができたら、こうやって頭をたくさん撫でてあげるんですかねえ。いいなあ」
僅かにその温度を残して離れていく手を惜しむように、小さくマコは呟いた。
「……気が向いたらいつでも言うと良い。手が空いていれば、撫でてやろう」
なんてことはない、それは自然と彼の口をついて出た言葉だった。
約束というにはあまりにも薄く、悠々と流れる時の波に呆気なく押しつぶされて、跡形もなく消えていってしまいそうなほどに、弱い。
けれど。
その時確かに二人は、おもっていた。
――いつかきっと、また。
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