アインという人物はいつだって真っ直ぐに生きていた。常に思うがままに突き進みながらも、すれ違う困っている人をたった一人とて放っておけない。
自分の心にひどく正直なやつだ、ブラッカはアインのことをそう思っている。だって、そうだ。自分の思いも他人の思いも同じくらいに大切にするくせに、正しいだけの未来には真っ向から立ち向かっていった。遥か遠い夢のような理想だって、もしかしたら叶えられるかもしれない。周りの人間にそんな風に思わせるだけの力が彼女にはあった。……だから、だろうか。日差しを眩しいと思うようなブラッカでも、こんな、陽の当たる場所で暮らしてみようと思ってしまったのは。
「……あつい」
「そりゃそうだよ。そんな黒い服で突っ立ってるんだから」
ぐったりと息を吐くブラッカを見て、土に塗れた野菜をかご一杯に抱えたアインが笑う。
冗談めかした様子の彼女から夏は初めて? なんて聞かれて、ブラッカは抗議の意味も込めて軽く睨み返す。そんなわけがないだろう。その程度の威嚇に物怖じするような相手ではないけれど。
しかし、どうして畑仕事をするアインを眺めていたのかと聞かれても、そこに特に理由がなかったものだから、だから、彼女に揶揄われる訳はブラッカ自身も理解していた。というより、誰よりも本人が一番思っていた。どうしてこんな夏場に何をするわけでもなく佇んでいるのだろうか、と。
「アルジェーンに拠点を置いてると、やっぱり夏は新鮮?」
「まあ、そうだな。シャトラに行けば多少感じるが、馴染みはない」
「ふうん」
大して気に留めないような喉の鳴らし方で、アインは出荷箱と保存庫とを行き来している。会話をしながらでも手を止めないところに彼女の優先順位を感じて、ブラッカは人知れずに小さく笑った。……蔑ろにされているようには全く思わない。ならばきっと、アインはアインらしい生活をしながら、その基盤とも言える部分にこの会話を置いているのだろう。そう、半ば希望的観測ながらも感じているからだ。
「でもそのままだと茹で上がっちゃうね。冷やしておいたドリンクあるから、これでも持っておきなよ」
「そうだな……助かる」
アインの鞄から取り出されたドリンクをその場でちろりと口に含む。冷たいそれが喉を通ると、火照った体が少しだけ落ち着いた。やはり、暑さにはしばらく慣れそうもない。
農作業に戻っていったアインを視線で追いかけて、一口、二口と少しずつドリンクを飲む。からりとした風に晒されても、木や建物の陰に移動しても、それでも暑かったこの気温が少しだけマシになったような気持ちになって、ようやく、ブラッカは理解する。
こんな日差しの中でもこの場所で生きていこうと思えたのは、間違いなく彼女のせいだったなと。この暮らしの中で何度、自分にはあの冷たい場所しかないのではないかと思ったのだとしても、それ以上の思いがブラッカにはあった。きっとこの無意識の行動は、それを確認するためだったのだ。
今一度、妖精たちと畑の相手をするアインを眺めて、ブラッカはその口元を覆う外套の中で口角を上げた。アインの傍ならばきっと、それだけで息がしやすかった。そんなこと、わざわざ教えてなんてやらないけれど。
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