蟇郡苛は僅かに生まれた困惑の感情に、その眉間の皺を深めていた。
大阪から学園へと戻り、一人になり、辺りには静寂が満ちている。校内を駆け巡る風さえも静かで、それ故に、つい数時間前まで繰り広げられていた戦闘の喧騒がやけに耳に残っていた。
彼を惑わせるその感情の根源にあるのは、満艦飾マコという少女の存在だった。
彼女は、とても真っ直ぐだ。その言動、挙動は予測を容易とせず、けれどどこか筋が通っていて、だからこその危うさを感じる。
先程の戦闘だってそうだった。友人の為に危険を顧みず戦地に飛び込む彼女を見ると、どうにも胸の内がざわついて仕方がない。
最初の内はほんの些細な感情で、けれど会う度目の前で繰り返される"彼女の戦い"にいつしかそれは見て見ぬ振りが出来なくなる程になっていて。
戦いの最中、例えほんの僅かであったとしても視線を奪われるようなことがあったならば、いつか己を……あるいはもっと大切な、守るべき存在さえも危険に晒してしまう可能性がある。そう、理解していたはずだった。
緊迫した戦場に響く声に思わず振り返り、口をついて出た言葉。
今にも駆け出して行ってしまいそうなその足の進路を、咄嗟に阻んだ。
「――容赦しない。例え、お前だろうとな」
その言葉は果たして、彼女への牽制だったのか、それとも。
蟇郡は握り締めた拳を見下ろして、自らに問いかける。
次にそれを振るう時。俺は、己の信条を、誓いを、貫き通すことが出来るのか。……例え振り下ろす先が、彼女だろうと。
即答するべき答えを前に、未だ彼は、その正解を出せずにいた。
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