昼休みも残すところあと僅か。
真昼の温い風を感じながら、蟇郡はじっと少女を見つめていた。
「何をしている、満艦飾」
「ん? ……あっ誰かと思えばがまごーり先輩! 見ての通りです!」
日当たりの良い場所を陣取り、きゅっと結んだその口の端を上へ吊り上げ、マコは得意げに言う。
見ての通りだと言われても、彼女のその様子は、蟇郡には暇を持て余しているようにしか見えなかった。
何かをしていたというにはあまりにその為の材料がない。そこにあるのは、少女のその身と、眩しい昼の日差しだけ。
「食事でもしていたか」
「ぶっぶー! だめですよお先輩! 今の回答じゃ、三角ももらえないですよ! 正解は何もしていないをしていた、でしたー! 因みにマコおすすめは、お昼を食べてお腹いっぱい程よい眠気な状態で寝転んで雲を数えたりすることです!」
「む、そうか。……そういえば纏はどうした。一緒ではないのか」
「流子ちゃんなら、美木杉先生に呼ばれて行っちゃったんです。だからわたし、暇だったんだー」
いつもの、大袈裟かつ不思議な身振り手振りで説明をしてみせるマコを見ながら、蟇郡は相槌を打ってやる。
会話が会話として成り立っているのかはともかく、とりあえずそれだけで一応、二人の間にコミュニケーションは成り立っているらしい。
「あーあー。でも静かでさみしーから歌でも歌おうかなぁって思ったんですよねえ」
蟇郡の眉がぴくりと僅かに反応を見せる。
その脳裏に過ぎるのは、いつか車に乗せてやったときに歌っていた彼女の歌。嫌悪感を覚えるということはないが、あのセンスには疑問を抱かざるを得なかった。
「いやしかし、それもさすがは満艦飾といったところか」
「む? なんだかよくわからないけど、今褒められた! マコは今、蟇郡先輩に褒められた! やったー! やったよー! 流子ちゃーん!!」
首を傾げたかと思えば、次の瞬間にはもう跳んだり跳ねたり、相変わらず忙しないやつだ。そう思う蟇郡は、無意識の内にその表情を和らげていた。
「あ! でもほら、今は蟇郡先輩がいるから! ぜんっぜん寂しくないどころか、寧ろ楽しいです! わたし、先輩とお話するの好きです!」
「っ……。満艦飾、お前……」
だから歌、必要ないです! と笑うマコに、蟇郡は胸の辺りが僅かに疼いたのを感じた。思わず喉まで出かかった言葉は、無邪気な笑みにその勢いを奪われてゆっくりと霧散していく。彼女のそれに、日常的なやり取りの言葉以上の意味など一切ないだろうに。わかっていながらも思考とは裏腹に、心には淡く期待が芽生えてしまう。
だがすぐに蟇郡はそれをぐっと抑え込み、心の内を悟られぬよう極力いつもの声色で言う。
「……そういったことを、あまり他の者に発言しないように」
言葉に滲む感情は、きっと彼女には伝わっていないだろう。
けれど、それでいいのだ。今はまだ、それでいい。
きょとんとした至極不思議そうな顔ながら、はぁいと手を上げて返事をする彼女の純粋な素直さが、彼にとっては有難くそしてやけに眩しかった。
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