「正直なところ手をつなぎたいと思っている」
その発言に、満艦飾マコはぱちりぱちり、と二度瞬いた。
「えぇえ、でも先輩、マコはそんなに子供ではありません!」
「何を今更……」
蟇郡の脳裏に過ぎるのは、先ほどまでの出来事。
彼が、両手いっぱいの荷物を抱えたマコに出会ったのはつい数十分前のことだ。
買い物帰りだろう袋を両手に抱え、持てなくなったらしい通学鞄を頭に乗せ歩いている彼女を見かけ、やれやれと手伝ってやるつもりで蟇郡が声をかけた瞬間。突然声を掛けられびっくりしたらしくぴょんと飛び上がったマコの頭の上で、しっかりと閉められていなかったらしい鞄から教材文具その他が滝のように落下。その音に慌てた彼女は持っていた袋の中身をも散乱させてしまい、二人で拾う羽目に。
それだけに止まらず、拾い終えた買い物袋を蟇郡が持ってやると今度は手ぶらになった彼女はなんと歩きながら居眠り。器用な奴だと呆れを通り越して感心すら出来そうだが、歩きながら寝るなど、危険極まりない。小さな体がふらりと傾きかける度にひやりとさせられる。
「大体、何故こんなにたくさん買い込んだのだ」
「えへへー、なんか気分良くてつい……」
「たまたま俺が通りがかったから良かったものの、お前一人で運ぶにはあまりに量が多いだろう。買い物は計画的に行え」
「はぁい。でも助かりました! ありがとーございます、がまごーりせんぱい!」
「うむ。次からは気をつけるように」
元より蟇郡はそれを手伝うつもりで声をかけたのだが、次から次へとトラブルを引き起こしそうなマコに、彼は荷物全てを持ち家まで送り届けると言い出した。
唐突な申し出ではあったが、マコはというとラッキー! なんて言って、遠慮も躊躇いもなく荷物を蟇郡に差し出した。
そんなマコを、蟇郡が咎めることはなかった。荷物の量と居眠りはさておき、荷物散乱の件については自分にも責があると思っているからだ。風紀部委員長、蟇郡苛。どこまでも生真面目だった。
「でもこう、荷物がなくて体が軽くて、あと帰るだけーと思うと……段々……ねむ、く……」
「満艦飾! 歩きながら寝ると危険、だと……、!!?」
ぐらりと傾いた体が真っ直ぐに、隣を歩いていた蟇郡の方向へと倒れ込んだ。
咄嗟に受け止めようとするも、手は荷物で塞がれている。その為胸で受け止め、空いている腕で支えるしかないのだが、傍から見れば、その様子は抱きしめているようにも見える。その事実に蟇郡は思わず言葉を詰まらせた。
中途半端に開けた口からは、声にならない音だけが小さく短く、零れる。
「満艦、飾」
「んん…………、はっ!? あわわっ、何故先輩がこんなに近くに!」
「ば、馬鹿者! 本当に寝る奴があるか!!」
「うひゃあぁ、ごめんなさいー!」
すぐに目を覚ましたマコは、素早く体勢を整え、今度こそしっかりとした足取りで歩き出す。
突然の出来事に、脈が少しばかり早まる。注意してやらねば。そう思い、蟇郡は言葉を発しようとした。
けれど。
「い、以後、気をつけます……っ」
先にそう言った彼女のその声が少し震えていたように思えて、その横顔が少し赤く見えたような気がして。
言いかけた言葉を見失い代わりに、心臓が一際大きく、どくんと跳ねた。
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title by 確かに恋だった
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