・
これ
の続きっぽいかもしれない
・夫婦設定
わたしが結婚をしてから、数ヶ月が過ぎた。
父ちゃんが大泣きしていたことも、母ちゃんや流子ちゃんがおめでとうと笑ってくれたことも、又朗がちょっと涙声で幸せになれよと言ってくれたことも、まるで昨日のことのように思い出される。
左手の薬指にはめた指輪は、太陽の光に小さくきらきらと輝く。ずっとつけていてもうすっかり馴染んだのに、それでもこうして眺めているといつかみたいなくすぐったい気持ちになる気がした。
旦那であるその人のことは、未だに先輩と呼んでいた。
流子ちゃんはそれについていつも呆れたように、けれど笑いながら、お前らしいなと言う。
逆に、先輩がわたしを呼ぶときは、いつも少しだけ間がある。一瞬言葉をつまらせて、それから呼んでくれる。
マコ。たった二文字、ただ名前を呼ぶだけなのに、先輩はいつも少し照れている。苗字が同じになるその瞬間までずっと満艦飾と呼んでいたものだから、といつも言いますけれど、もうそろそろ慣れてくれてもいいんじゃないですか。とは思うのだけど、でも、その照れた顔はかわいくて、わたしは好きだ。
そう言ったら、きっとあの人は顔を真っ赤にして怒るのだろう。わたしは知っているのです。伊達に先輩と後輩だった頃から怒られ続けている訳ではないのです。いわば、わたしは先輩に怒られるプロなのだ。
しかし、いつも先輩と呼ぶわたしだけど、たまーに、名前をお呼びすることもあるのです。
ある目的があって、時々、お呼びするのです。例えば、そう、ちょっと甘えたいときに。
「……酒を飲んだのか?」
「えへへぇ〜、ちょっとだけですよお」
「程々にしておくようにな」
普通に、面と向かって呼ぶとあまりに新鮮な響きにどちらからともなく照れてしまうので、いつも少しだけお酒の力を借りることにしている。
ふわふわとした気持ちで腕にぎゅっと抱きつくと、先輩はいつも大きな手のひらで優しく頭を撫でてくれる。
その手のひらが、わたしは、
「だぁいすきですよ、苛さん」
そう言って目線を合わせる。わたしを見下ろすその視線は、いつだって、どこまでも優しい。
頭に乗せられていた手が、頬を撫でるようにするりと滑り降りて顎に添えられると、わたしはそっと目を閉じる。
段々呼吸が近づく。すぐ傍に、大切な人がいる。
ふわりと触れる温もりを感じるこの瞬間こそ、きっと、幸せと呼ぶに相応しいのではないだろうか。
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