拍手使用物 始まりの風が吹く前に
華蓮が秀麗のところへ訪れる話
2012.02.17



今日はというと、珍しく父の知り合いという人が家に訪ねてきた。
女の自分でも惚れ惚れするような、胡蝶とはまた違った色気のある女性にはじめ秀麗は家を間違えられたのかと思ったが、「邵可はいますか?」と、女性が言うので家の中に招いた。

招いたのはいいのだが、すぐには父の名が女性の口からでたことが信じられず「ショウカって…邵可よね?父様のお名前」と静蘭に確認してしまった。きちんと父の知り合いだとわかってからは「父にこんな美人の知り合いがいたなんて!」と驚いた。


そして父の帰りは遅いことに気づき平謝りすれば、彼女は「じゃあ私とお茶しましょ」と、持っていた風呂敷を広げ美味しそうなお饅頭の詰まった重箱を広げた。遠慮しようとすれば「邵可の代わりに話し相手がほしいのよ」と秀麗に椅子をすすめ、静蘭までも無理矢理座らせた。



彼女は父の話もききたがったが、秀麗の話もききたがった。


「へえ、普段は賃仕事でやりくり、ねえ。大変でしょう、でも、楽しそう」

くすりと笑う仕草にみているこちらがどきりとする


「でも、年に一回米俵が届くんです。父の知り合いからみたいなんですけれど、それで結構助かってますし」

それをきいた女性は何故か妙な顔をしていた。

静蘭も、めずらしく笑顔を浮かべ話をきいていた。



たくさん話した分、たくさん父の話をきいた。


「あのほっそーいめがこう、しゅっと開いて瞳ギラギラさせてね、髪型も今みたいに冴えない男丸出しな下に垂らすようなのじゃなくて、上のほうで括ってデキる男感だしててカッコよかったのよー」


「父様にそんな時期があったなんて…!」


秀麗の言葉に堪らず噴き出す静蘭


「お嬢様、それは旦那様に悪いですよ。若い頃には色々あるものです」


それはそれで静蘭の言葉のほうが父に失礼な気もしたが、女性はとても面白そうににこにこしていたので、まぁいいか、父様だし。などと更に追い討ちをかけることを思った。



やがて、女性が帰り際にポツリと呟いた。


「もうすぐ、桜が咲く季節ね」


「……もう、うちの庭の桜は咲かないんですけれどね」


言うつもりのなかった言葉、しかし気づけば口にしていた。そして涙が後から後から、とめようもなく溢れてくる。彼女は秀麗を優しく抱きしめ、ぽんぽんと背中を撫でてくれた。


「始まりの風が、もうすぐ吹くわ。貴女の夢も、近いうちにいっぱい花開くでしょうから。庭の桜も、いつか花開くわ」




含みのある言葉を残して、女性は帰っていった。

その言葉の意味を秀麗が知るのは、もう少し先になる。



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空中三回転半宙返り土下座
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