緑風は刃のごとく 幕間2・あの人がやってきた。
その日、王朝に一つの報せが舞い込んだ。

先の王の時代で、生ける伝説と化していた元筆頭女官が、こちらに訪れるという。

ある人曰く、その美しさは目を合わせると魂を奪われるほどだとか、実はこの世の存在ではないのではないかとか、かの先王の求愛を盛大に蹴ったとか。


「噂に尾ひれがつきすぎですわ」


それだけの時間が経った、ということかもしれない。


その噂の元筆頭女官を一目見ようと、皆こぞって後宮周辺をうろついた。中には、集団で侵入を試みた者達もいたらしい。王族と女官以外は基本的に立ち入り禁止のはずなのに、だ。
その時は、カンカンになった現筆頭女官が武官を引き連れてきたことで、辺りにいた人間は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、事態は収束したのだが、連れてきた武官達も元筆頭女官を一目見ようと、「後宮の警備」を言い出したらしく、酷く現筆頭の機嫌を損ね追い出されてしまったらしかった。


「まあ。大袈裟ですわねえ」


その噂の主は、軽い調子でそんなことを言う。現筆頭から責めるような視線が飛んできて、『彼女』は苦笑する。現筆頭の苦労を思えば確かに、悪いことをした。


「それで、私がこちらへ来た理由については、何と?」

「はい。劉輝様の縁談を取り持ちに来たと。先代筆頭女官に認められた者こそが、次の妃であるとも」


『彼女』――華蓮は、呆れ混じりに微笑んだ。


「私はただ、元劉輝様世話役として、そして元筆頭女官として。後宮に入られるという姫を一目見にきただけですのに」

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空中三回転半宙返り土下座
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