「鈴将の出身、きいていい?」
「ん。紫州、彭民も一緒。けど、鈴家は実家……本家、って言った方がいいか。それが黒州にあるから。年に一、二度はそっちに戻ってる。
ちなみに彭民とは、爺さん同士が盟友、親父同士も親友。母親同士は仲良い従姉妹。ついでに、邸が隣同士。だから、必然的に小さい頃からアレと顔合わして過ごす羽目になってたんだよねぇ」
その接点がうんざりだとでもいうような、げっそりした顔で鈴将は言う。櫂兎はというと、あれよあれよと出てきた、彼らの関係、彭民曰く『腐れ縁』の内容に驚きの連続だった。
「家族ぐるみの付き合いだったのかー」
「本当アレ昔っからあーだこーだ煩くってさ、真面目すぎんだよなぁ」
はあ、と息を吐いて肩を落とした鈴将に、櫂兎は少し心地悪そうに苦笑いした。
「真面目なのは悪いことじゃないと思うけれど」
「他人にまで強要されちゃ困るってんだ。俺はあいつほど要領よくないってのに、本人がそれを分からないって顔して責めんだもん。やってらんねえぜ、もう」
あーあと肩を竦めてから、鈴将は次の黒団子を口に詰め込んだ。
「……それで、今は兵部に?」
「むぐっ」
櫂兎のその言葉に、鈴将は驚いたのか黒団子を喉に詰まらせかけた。
茶器を片手に戻ってきた邵可が、それをみて慌ててそれを机上に置き、彼の背中をさする。なんとか飲み込んだらしい鈴将は 咳き込みながら、近くにあった、邵可が淹れてきた茶を煽った。……よりにもよって、父茶の一気飲みである。
鈴将は、言葉では形容しがたい、呻きにも似た悲鳴をあげて椅子から転げ落ちた。
「ど…毒っ」
喘ぎえづきながら、その場で身体をまるめる鈴将の背を、櫂兎はさすりながら告げた。
「悪い、鈴将。それが通常仕様なんだ」
本の返却を記録するだけにしては妙に遅いと思っていた、そこで気付けていればこんな悲劇は起きなかっただろう。
当事者であるはずの邵可自身が、櫂兎のそんな悔いも葛藤も無縁という顔でとぼけたようなことを言う。
「おかしいな、身体に良いものばかりのはずなのだけれど」
良薬口に苦しと言うが、邵可の茶の渋さ、苦さは異常だ。味覚を本気で殺しにかかってくるような、激痛にも似た刺激。…本当に何入れてるんだろうこいつ。
「それが原因だよ」
「あはは」
茶一杯に人が一人目の前で倒れているというのに、それをひと笑いとは。なんとも恐ろしい男である。
「鈴将、大丈夫か? 立てる?」
「……肩借して」
「ん」
肩を貸し、さらに腰を支えてやる。鈴将はよろめきながら立ち上がり、そのまま椅子に落ちるように座った。足がぷるぷると震えている。その顔に刻まれているのは、父茶への恐怖。
櫂兎は、優しく彼の肩をたたき、何も言わずにそっと彼の手に黒団子をのせた。鈴将も、無言で黒団子を齧る。彼の目から、一筋の涙が流れた。
「……美味い」
「ごめんな、ごめんな鈴将…」
貰い泣きしそうになる櫂兎を余所に、邵可は相変わらずのほほんとしていた。鬼か。
△Menu ▼
bkm