皇毅の仕事に付き合い、いつもより遅い時間に自邸に帰った櫂兎は、邸にはいってすぐのところで、待ち構えていたらしい沙羅に飛びかかられた。
「おっかえりなさーい!」
「ぐはぁ」
鳩尾にぴったりの位置に頭突きするように突っ込んできた沙羅を、まともに食らってしまった櫂兎は、暫く痛みのため床でピクピクとしていた。それから、気を取り直し、身体を起こす。
「突撃、よくない。ダメ、絶対」
顔面蒼白で首を横に振りながら、真顔で言う櫂兎に沙羅はおっかなびっくりした風にカクカクと謝った。
「ご、ごめんなさい……」
「うん、お願いします」
切実な願いである。と、沙羅の後ろから朔羅がひょっこりあらわれる。朔羅は、顔色の悪い櫂兎をみて目をまるくした。
「どうなさいましたか、大丈夫ですか」
「え、ええ。平気です」
腹をおさえて苦しげながらも、櫂兎は笑ってみせた。
「ならよいのですが……。ああ、言い遅れました。お帰りなさい。
棚夏さんのお夕飯は、遅くなられるようだったので、準備できていません、申し訳ありません。今から用意しますね」
今度は別のことに顔面蒼白になる番だった。彼女の料理というのは、なるべく避けたい事項である。櫂兎は必死に訴えた。
「い、いや、いいです! 大丈夫です! 自分でやります」
「そう、ですか。
……すみません、沙羅からききました。うちの子の我儘にもお付き合いして頂いて。なんとお礼を言ったらいいか。本来、私が教えるべきことですのに」
はて、なんの話かと櫂兎が首を傾げたところに、補足するように沙羅が話す。
「そう、母様と父様に、許可貰ったの! 棚夏おにいさんにお料理教えてもらうの!」
「ああ、そのことですか。いえいえ、お気になさらず。お手伝いしてくれるっていうんで、助かっているくらいです」
櫂兎のそんな言葉に、沙羅が目を輝かせた。
「棚夏おにいさん助かるの? じゃ、おにいさんの晩御飯も、沙羅、今から手伝っちゃう!」
「もう、この子ったら…すみません」
申し訳なさそうに肩を縮こませる朔羅に、櫂兎は微笑む。
「いえいえ。じゃ、お言葉に甘えて、沙羅ちゃんに手伝ってもらおうかな」
「沙羅頑張る!」
無邪気に意気込む沙羅に、その場一同笑顔になる。応援の言葉を残して、朔羅は室に戻った。
沙羅と台所に向かいながら、櫂兎は彼女にふと気になったことを問うた。
「貘馬木殿は?」
「んっとね、お部屋! 作戦会議なんだって」
「作戦会議…って、一人で?」
「一人で!」
大丈夫だろうかあの人
△Menu ▼
bkm