緑風は刃のごとく 27
櫂兎は席を立つ。


「もう行かれるんですか?」


猫被りな態度でそんなことを言う清雅に顔が引きつりそうになるのを堪えながら、彼が袖に気付いているか、彼の袖にさりげなく視線を向けて訊く。清雅は、櫂兎にだけ見える角度で袖を示す動作をした。問題なさそうだ。


「ええ、秀麗ちゃんを待てないのは申し訳ないですけれど、仕事を抜けて来ているものですから、そろそろ戻らないと上司にも怒られてしまいそうで」


実際のところは、今日はこの仕事以外何も言付かっていないのだが、皇毅のあの過労っぷりを見てしまっては、手伝わざるを得ない。手伝うならば、早く戻って悪いことはないだろう。


「お茶をご馳走様でした。
……ああ、タンタンくん、ちょっといいかな」


指名された蘇芳は、訝しみながら櫂兎を見つめる。その視線を受け流し、櫂兎は言う。


「秀麗ちゃんに、『頑張りすぎて、転ばないように』…いや、『頑張りどころは見極めて、足元の石には気をつけて』と言伝ててくれないか?」

「それ、どうして俺に頼むワケ?」


他の二人…それこそあのセーガ君の方がいかにもしっかり者っぽいと思うだろフツー、と心底疑問そうに言う蘇芳に、櫂兎はくすりと笑った。


「さて、何故でしょう」


まるで謎掛けのような言葉を残して、櫂兎は冗官室を後にした。








「蝋燭の替え、用意しておきました。それと、今日は正門、開けておいてもらうように頼んでおきましたから」


同じ轍を踏むようなことにはならないでしょう、と燭台を掲げて櫂兎は笑顔をみせた。
時刻はすっかり夜、皇毅に付き合って仕事をしていたら案の定こんな時間だ。


「……それでどうにかなることか?」

「今日のところはどうにかなりました。その件でお話があります」

「何だ」


皇毅は視線だけを櫂兎の方へ向けた。


「はい。まず、これから暫くの間の話ですが。暫くは、人が出入りする予定がある日、昼までに門番さんに告げておけば、定時が過ぎても門番さん居て下さるみたいですよ。いつもより夜警に割かれる人数は少ないみたいですが。
そして今回の門番削減実施ですが、申請書を出せば今からでも実施対象にならずにすむそうで、数日有れば従来のかたちに戻せるとのことです。申請書については明日、説明を受ける約束をしています。その内容は、後に長官にお伝えしますね」


事情を話して、きいてみれば、今回門番削減の対象になったのは事故のようなもので、実に単純な解決方法だった。

御史台が元々外部の人間の出入りの少ないのと、御史台の勤務事情が外に知られていなかったことで、門番経費削減の対象になってしまったらしい。
門番の必要性があると部署から申請文を出せば、数日もすれば従来の門番サイクルに戻るみたいだ。これを機に休みをとろうとしていた門番さんには悪いが、そう何日も御史台に缶詰めは御免だ、さっさとその申請文を作ってしまうのがいいだろう。…定時で出れば問題ない、ということは気にしないことにしよう。


「そうか」


皇毅の様子からするに、その仕様は彼に知らされていなかったらしい。……削減するならするで、もう少し対処法なり事情なり何なり教えてもらいたいものだ。

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空中三回転半宙返り土下座
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