「棚夏殿こそ、彼とは一体どういう用件で」
訝しげにきく彭民に櫂兎は答えた。
「彼に回収手伝って貰ったんですよ。半刻もかからず持ってきて頂いて助かりました」
「……彼奴がですか?」
彭民は眉根を寄せ、理解し難いという顔をしたが、櫂兎は特に何もそれ以上答えず、そこで話題を切った。
「さて、ではお仕事に参りましょうか」
櫂兎はそう言い、彭民たち三名に、にこりと微笑んだ。
彭民に連れて来られた二人は、張と染と名乗った。軽く自己紹介をし、回収品一覧表を手渡す。そして、簡単に概要を話してから、細やかな手順を説明した。一覧とは別に、贋作と判明している作品の特徴が記された紙も渡すと、彼らは軽く目を通し、これらなら現物を見たことがあると口々にいった。さすがというか、なんというか。その道に秀でた人というのは、頼りになる。その二人を連れてきた彭民自身も詳しい様子で櫂兎はしきりに感心していた。
「それなりに有名な作品もありますから。しかし、よくまあ、贋作と気付かれずにこれだけの作品を捌いたものです」
彭民が肩を竦めるのに、櫂兎はくすりと笑って言った。
「それだけ腕のいい絵師がいるのでしょう」
そして、贋作が精巧であればあるほど、どの作品かの判別はつきやすいだろうと櫂兎は戯けてみせた。
「ここが、今のところ回収の済んだ品を保管している場所です」
御史台の空き部屋についた櫂兎は、皇毅から受け取った鍵で扉を開け、中に置かれた贋作たちを三人に示した。三人は贋作を各々手に取っては感心した風な息を漏らす。
「これはまあ、見事な」
大きな虎の描かれた巻物を手に、彭民は呟いた。横で見ていた染も口を開く。
「本当に、これを描いた者は相当な腕の持ち主だ。贋作など描かずとも金は入るでしょうに。ううむ、羨ましい。私もあやかりたいものです」
「こら染」
「いやいや、失礼しました。冗談ですよ! じょーだん。お金の絡みそうな話だったものですから、つい」
染は親指と人差し指で輪をつくっておどけてみせた。どうやら彼はお金が絡む話が好きなようだ。確かにお金は大事だ。というかその動作は万国共通なのだろうか。
「よほどの目利きでないと騙されてしまうでしょうね」
張は贋作を手にそう言い目を細めた。
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bkm