紅梅は夜に香る 48
「もうひとつ質問、よろしいですか」

「何だ」

「助力をあおげそうな者がいたら何人か連れて行きたいのですが、いいですか?」

「構わん。引き継げそうな者が居るなら引き継いでもいい」

「了解です。ありがとうございます」


人の手を借りられれば、比較的楽になるだろう。
それで話が済んだのか、皇毅は晏樹にこの件は他言無用であることを釘さしてから、室を出ようと踵を返す。その背中に、櫂兎はまた一つ言葉を投げかけた。


「長官も、紅茶飲んで行きませんか?」

「いらん」


そう一言、櫂兎に返して皇毅は出て行った。……驚いた。てっきり、飲んでいくものだと思っていた。
華蓮として彼と茶を飲んだ時、彼は紅茶を気に入った風に話してくれていたのだが。
……もしかして、実際は気を遣われていただけで、彼は紅茶が嫌いだったのかもしれない。


(思っていた以上に…それ、ショックなんだけど)


別にそうだと決まったわけではないが、その可能性が捨てきれず、櫂兎は少し肩をおとした。


皇毅が室からいなくなり、晏樹はぽつりと一言漏らした。


「皇毅ってば今になってやっとお姫様のこときいたんだ」

「お姫様……って、もしかして華蓮のことだったんですか?!」


前に晏樹に訊かれたときに、何のことかと思っていれば、そうだったのか。
晏樹は、冷めた紅茶を口に運びながらにっこりと笑んで告げた。


「そうだよ、君に執着していたのもそれ」

「……え? 吏部尚書の件ではなかったのですか?」

「それもあるだろうけどー。それだけじゃ、わざわざこうして部下にすることもないでしょ?」

「……言われてみれば、確かに」


櫂兎は顎に手を当てる。しかし、それなら余計に、彼のいう華蓮への用事が何なのか、謎だ。
旺季様ラブだから華蓮の存在が邪魔? だからって、わざわざ呼び出して言うわけない、よな、多分、多分。じゃあ、なんだ?


「さて、僕もそろそろお暇しようかな。ご馳走様、美味しかったよ」

「あっ、お粗末様です。次はお茶菓子用意しておきますね」


その次が無いことを正直祈りたいが。


「楽しみにしてるよ」


やめてくれ。そう言いたいのを堪えて笑顔を返す。


「そうだ、君」


室を出ようというところで振り返り、晏樹は言った。


「余計なことしないでね」


にっこりと笑った晏樹の顔は、妖艶で美しく、どこかおそろしかった。

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空中三回転半宙返り土下座
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