朝廷百官がそろう場で、悠舜は尚書令及び宰相位に任命された。
任命にあたって、悠舜は王に「鄭訓十条」を提示する。
「お約束いただけますなら、尚書令の位、伏して拝し奉りましょう」
そうすることで、悠舜は王の考えを悠舜の考えにすり替え、今までの王の独断行為に不満募らせていた貴族派の王への矛先を自分へ向けることに成功した。
そして王は、今ようやくその手に『楯』を得る。
「うーん、さすが悠舜、かっこいい」
「ちっ、あの洟垂れ小僧め…」
櫂兎と黎深は、クッキーをつまみながら、府庫でそんな会話をしていた。ちなみに府庫の主は不在だ。二人とも、目当ての人物は邵可だったので、目的は果たせなかったのだが、久々に会ったこともあり、櫂兎がクッキー…黎深曰くの甘煎餅と、お茶一式をもってきていたこともあり、府庫でお茶をしながら話すことになった。
「悠舜がかばう必要など…ッ」
そういうと、黎深はガッと両手いっぱいにクッキーをつかんで己の口に詰め込んだ。
「黎深、意地汚い」
ついでに、頬がふくらんでいて端正な顔が台無しである。
「ふぁっへ、ははひゃえひょっひょっふ、ふひょうへ!」
……うん、何言ってるかわからない! まあ、だいたい劉輝に悠舜が跪くのが気に入らないとか、王の味方するのが気に食わないとかそういうこと言ってるんだろう。
「んなこといったって王は一人で立ってたんだ。鎧も楯も、何もない状態で、ただ耐えて」
「……」
口いっぱいのクッキーをごくんと飲み込んで、黎深は櫂兎をじっとくいいるように見つめた。
「…え、れ、黎深? その視線何?!」
「お前は、あの王の味方か」
「……まあ、そう、なる…」
かな、と言おうとしたところでぎろりと睨まれる。櫂兎は眉根を寄せた。妙に不機嫌である
「そんなこと、私は聞いていない」
ツンとした態度でいった黎深に、櫂兎はかつてどこかで似た光景を見たような気がして、それからそれがなんだったか思い出し、声をあげて笑った。
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