「華蓮様っ、華蓮様あ!」
最近後宮に入った十一、二歳の可愛い少女が駆け寄ってくる
「そんなに慌てて、寧明、どうしましたか?」
「その、華蓮様にお客様だそうで……ええと、あの、」
「劉輝様かしら?」
最近かまってあげられなかったから遊びに来たのだろうか
「い、いえ……外朝からのお客様で、御史大夫の旺季様を名乗っておられます。紋も、佩玉も、確かに確認致しました」
「………御史、台…?」
私が何をしたろうか…第一ここは後宮、官吏の立ち入る場所ではない。
あぁ、でも。先日のことを思い起こす。清苑に声をかけたし劉輝と話をしていた、それだけで何かの疑いの対象になっているかもしれない。
不安そうにみつめる寧明の頭を優しく撫でる。
「大丈夫、後ろ暗いことなんて何ひとつしていませんもの。では、少しここを離れますわね」
廊下を歩くときも、何の用で来ているのか考えてみるが答えは出ない。
そうしているうちに後宮入口付近に着いてしまった。仕方なしに覚悟を決めて旺季に向き合った。
旺季のほうはというと、従者などはおらず、1人だった。あたりに控える人の気配もない。こんなに無防備で、単身で乗り込んでくるなんて、何が何でも普通でない。一体全体、何の用だろう。
「公務中に失礼する。貴女が華蓮殿か。」
「ええ、お呼びになったのは貴方ですわね、旺季様。失礼ですがここは後宮、たとえ御史大夫であろうと一官吏が立ち入ってよい場所ではありませんわ」
それは悪かった、と素直に謝罪の言葉を述べる旺季……本当に何しにきているんだ。
「その、用件なのだが、ここではないところで話をしたい」
「…え、ええ。それは宜しいですけれど……」
御史台待ち伏せ作戦か?
こちらです、と何気なく紳士的にエスコートし、手を引いてくれる旺長官
着いた先は綺麗な鯉の泳ぐ池の近く。待ち伏せされている様子も無かった。本当に用件は何なんだ?!
本題はまだかまだかとうずうずしていれば、ふっ、と旺長官が言葉を発した
「個人的な用で呼び出したんだ、そう強張らないでほしい」
「…個人的な、用…ですか」
私用なのか、これで従者の1人もつけていなかった理由は分かった。しかし、その用件の内容が何なのか、尚更分かりかねる
と、急に旺季は俺の両手を握りしめ、こちらを見つめ、言った。
「華蓮殿は本当に人間か…? 夢幻の類ではない、のか?」
いきなり何をきくかと思えばそんな言葉。まさかの展開にきょとんとして「ええ、まあ…フツーの人間です」とかえす。
「その、触ってもよいだろうか」
まるでそこにあるのを確かめるかのように首筋に手を延ばしてくる旺季
妙な既視感をおぼえる。これはあれだ。薔薇姫をみた時の邵可。
それに気づきふらりと放心しかける。薔薇姫、貴女のスパルタ礼儀作法特訓は実を結びすぎたよ!
「宜しいですけれど…どうしましたの? 天下の御史台長官様が世迷いごとを仰るなんて」
す、と首筋をなぞる旺季の指にびくりと身体がはねる。ぞわぞわしてくすぐったい。
「まるでそこに居るのか信じ難いほど、華蓮殿が…その、美しいから……」
何歯の浮くセリフはいてんだと砂をはきそうな気分で苦笑いを返す
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bkm