欠けゆく白銀の砂時計 15
「ありがとうございました、色々と」


ぺこりと櫂兎は頭を下げた。


「いや、こちらこそ。ああ、それでこれの発注先は決まっているかい?」

「……そう、ですね。貴陽全商連で、なんてどうです?」


凛さんはその答えを待っていましたというように、商人顔でにっこりと笑った。


「毎度あり」








商品は貴陽で完成したら茶州全商連に完成品を取り置いておいてくれという櫂兎の頼みに、受け取りにくるのだろうかと首をかしげつつ凛は受託した。


「しかし、他の綿や包帯まで発注品を金華に置いておいてくれとは…茶州ででもその練習とやらはされるのかい?」

「えーと、うーんと、う、ん?」


櫂兎は言葉を濁した。


「学舎が茶州に設立することになれば、お医者様の卵も集まるだろうから、その時に、でも…なのかなぁ」


今ひとつ要領得ない櫂兎の答えに、練習催す話の中心に櫂兎は近くないのか、と凛は思った。要るものの手配だけ頼まれたのかもしれない。自分は今の今まで人体切開術などと聞いたことはない、きっと高度でほとんど知られていないことは確かだ。彼の知り合いに、それを教示しようとしている人でもいるのだろうか、その人物が茶州に訪れるかもしれないこと、それは歓迎だが――


「学舎の件はどこで知ったの?」


いくらなんでも、小刀の話を彼に初めてきいた秋の頃なら学舎案の段階として早すぎるし、案件として十分に煮詰め持ってきた現時点のものは、つい表に出して間もない。もちろん通す気ではいるが、まだ通るかはわからない――


「えっと、四、五十年ほど前に書物で?」


櫂兎の答えに凛はぽかんとした顔をした。


「冗談は別に求めていなかったのだけれど……。まあ無理に答えてとは言わないよ」


凛は州牧二人と彼が知り合いらしいことを思い出し、前々から彼らのなかにあったのかもしれないと推測をつけ納得した。







邸にて夕餉を作っていれば、秀麗が疲れた顔で帰ってきた。どうやら、朝賀の挨拶のあともご近所さんや何やら、いろいろな場所を駆けずり回っていたらしい。きっと明日も、彼女は忙しくすることだろう。


「ああ、おかえり秀麗ちゃん、綺麗だったよ」


さらりと口にし微笑んだ櫂兎に、秀麗は顔を真っ赤にした。


「――ッ、あ、えあ、ああっ、ありがとう…ございます……」


その秀麗の様子をみて、邵可は呆れながら櫂兎に言った。


「そうさらりと娘を口説かないでくれないか、櫂兎」

「口説かれてないわよ父様ぁ!」


顔を真っ赤にして秀麗は否定した。隙があり過ぎる自分は、こういうことに気を張るつもりでいたのに、どうしてか櫂兎相手では無理だった。まあ、彼相手の場合、お互い恋愛感情ではなく親愛であることは分かっている――のだが、妙に恥ずかしいから不思議だった。


秀麗の心中穏やかでないであろう様子に邵可は気づきながら、この友人はと隣をみた。


(…無自覚の天然なたらしだからたちが悪いんだよね)

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空中三回転半宙返り土下座
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